三人目の手

まどかは、フォークダンスが嫌いだった。

音が聞こえにくいからではない。補聴器があれば曲は分かる。嫌なのは、相手が必要以上にゆっくり口を動かしたり、心配そうに手を引いたりすることだった。練習では音楽が止まったことに気づかず一人で回り続け、笑われた。それ以来、床の振動と周囲の肩の動きを先に見る癖がついた。

列に並ぶ直前、千隼が隣へ来た。

「俺、リズム感ないから助けて」

「それ、私に頼む?」

「まどか、足元は見えるだろ」

失礼なのか自然なのか分からず、まどかは笑った。

曲が始まる。校庭のスピーカーは少し割れていた。低い音だけが靴底から伝わり、高い旋律は風にちぎれた。最初の相手は緊張して手を握りすぎ、次の相手はほとんど触れなかった。人が入れ替わるたび、まどかは相手の唇と足元を交互に見て、四拍を数え直した。

三人目が千隼だった。

彼は手を取ると、親指でまどかの手の甲を軽く叩いた。

一、二、三、四。

「何してるの」

「俺用のメトロノーム」

口の形で分かった。

千隼は曲に合わせて叩き続けた。まどかも同じように返した。足は何度かぶつかり、回る方向も一度間違えた。それでも、音が遠くなっても拍だけは掌から伝わった。助けられているのではなく、二人で一つの間違いやすい拍を守っている。そのことが、まどかにはうれしかった。

交代の合図が鳴る。千隼の手が離れた。

次の人、また次の人。円は動き、千隼は反対側へ流れていく。まどかはもう四拍を見失わなかった。自分の手の甲に、さっきの感触が残っていたからだ。

曲の終わり、拍手が起きた。まどかにはそれが雨のように聞こえた。

整列へ戻る途中、千隼が追いついた。

「助かった」

「私も」

「俺の方が?」

「たぶん同じくらい」

二人は手を上げ、ハイタッチをした。今度は音がはっきり聞こえた。千隼も同じ音を確かめるように、もう一度だけ掌を見た。

あの日のフォークダンスで、まどかは何人もの手を取った。

覚えているのは三人目だけではない。

三人目の手が教えてくれた、その後すべての四拍だった。