三分遅れの花束

朝倉透子は、駅のベンチで花束のリボンを結び直していた。

同期の誕生日会は十九時半から。乗るべき電車は三分後に来る。けれど薄桃色のリボンは、右の輪だけが大きく、包装紙には駅まで走ったときについた皺が一本あった。

花屋ではきれいだった。透子が持った途端、整っていたものが崩れた気がした。

彼女は昔から、贈り物を渡す前に疲れ切る。カードの字を何枚も書き直し、包装紙の角が一ミリずれれば包み直す。相手のためと言いながら、喜ぶ顔より、失敗を見つけられる瞬間を想像していた。

リボンを解く。今度は左右が揃ったが、結び目が少し下へ寄った。もう一度。指先が汗ばみ、布が滑る。

ホームへ電車が入ってくる音がした。

この電車を逃せば、待ち合わせには十五分遅れる。今のまま立てば、三分ほど遅れるだけで済む。それでも透子は、次の結び直しに手をかけた。

包装紙の皺を隠すように花束を回すと、一本だけ短いチューリップが見えた。ほかの花に埋もれ、首を傾けている。透子はそれを引き上げようとしたが、茎を折りそうで止めた。

ドアが開く。

透子は結び目を直さなかった。左右の違う輪を両手で押さえ、電車へ乗った。駆け込みではなく、普通の速さで。ドアが閉まると、窓に花束と自分の顔が映った。

同期へ「三分くらい遅れます」と送る。理由は書かなかった。完璧に間に合わせられない自分を説明する文章を、作らなかった。

会場へ着くと、時計は十九時三十三分だった。受付の前で、透子は最後に一度だけリボンへ触れた。大きい輪は大きいまま、手を離す。

同期は「来た」と言って花束を受け取り、すぐほかの人に呼ばれた。短いチューリップは、その腕の中でも少し傾いていた。包装紙の皺にも気づいたかは分からない。

透子は空いた両手を見た。指にはリボンの細い跡が残っている。

席へ向かう途中、誰かが乾杯のグラスを渡してくれた。透子は遅れた三分を取り戻そうとせず、その場で一口飲んだ。

三分は戻らないまま、夜が始まった。