三日目に腐った王国

補給侯レザーンがアウディラを国家厨房から追放して三日目、北方軍の食料庫から甘い腐臭がした。

樽を開けると、塩漬け肉は緑色に膨れ、干し豆には白い糸が走っていた。十万食分が、一晩で食べられなくなっている。

「保存魔法が切れたのか!」

倉庫魔術師は首を振った。術式は正常だった。

原因は積み方だった。肉樽と豆袋を同じ列へ詰めたため、肉から出た湿気を豆が吸い、発酵熱がこもったのだ。アウディラは食材ごとの呼吸を読み、樽の間に指二本分の隙間を作り、日ごとに列を入れ替えていた。

レザーンはそれを「料理人が倉庫を散らかしている」と決めつけ、整然と積み直させた。その整然さが、国の兵糧を腐らせた。

北方軍は出陣を延期した。最初の敗北は戦場ではなく、倉庫で決まった。

レザーンは腐った上層だけを捨てるよう命じたが、熱は樽の中心まで回っていた。帳簿上は十万食、食べられる物はゼロ。整った列を自慢した彼の視察印が、すべての樽に残っていたため、責任を料理人へ押しつけることさえできなかった。

そのころアウディラは、港湾自由都市の市場で魚箱を並べていた。魚、穀物、香辛料を区画ごとに離し、風の通り道を白線で示す。翌朝になっても、競り場に腐臭はない。

市場長は昨年の廃棄記録と見比べ、目を丸くした。

「一日で廃棄が八割減った。あんたは皿の上だけでなく、皿に届く前の食材まで料理しているんだな」

アウディラは〈食料保存監督官〉に任命された。商人たちは彼女の許可なしに箱一つ動かさない。

午後、王国印の早馬が来た。レザーンの命令書には、恩赦という文字が大きく書かれている。

『国家危機につき帰参せよ。腐敗を止めれば、罪を不問とする』

アウディラは市場長へ命令書を見せた。

「私の罪とは何でしょう」

「有能だったことじゃないかね」

二人で笑った後、彼女は王国の使者へ返書を渡した。

『恩赦は不要です。王国厨房との雇用契約は、国外追放令の執行時に終了しています』