三枚の骨札
イルヴァは火のそばへ三枚の骨札を並べた。
狼の牙、馴鹿の肩骨、鷹の胸骨。冬営から南へ抜ける三本の道を示す札だ。狼は凍湖、馴鹿は石原、鷹は峡谷。氏族の斥候なら、子供でも意味を知っている。
今夜、札を読むのは敵だった。
「捕虜を逃がしました」
弟のセドが言った。
「逃がしたのではない。帰した」
捕虜には、イルヴァが狼札を腰袋へ入れるところを見せた。凍湖を退却路に選んだと思わせるためだ。追う灰角族は二百騎。こちらは老人と子供を含む百二十。凍湖へ誘えれば、中央の薄氷で騎馬を止められる。
だがセドは狼札をつまみ、火へ透かした。
「これは去年の札だ。裏の切り込みが二本ある」
イルヴァの指が止まった。
灰角族は昨年、こちらの札を三枚奪っている。捕虜が腰袋の札を見れば、偽装だと気づく。敵は逆に、最も安全な石原を塞ぐだろう。
「作り直す時間は」
「ない」
遠くで犬が吠えた。捕虜が敵陣へ戻ったのだ。
イルヴァは三枚を握り、狼札を火へ投げた。次に馴鹿札を腰へ入れ、鷹札をセドへ渡す。
「皆を峡谷へ」
「鷹は行き止まりです」
「雪崩のあとはな」
昼の偵察で、峡谷を塞いだ雪塊の下に細い空洞を見つけていた。人は腹這いで抜けられる。馬は通れない。敵が石原へ回れば、氏族は峡谷を越えられる。
「でも捕虜は、狼が偽札だと見抜けば、残る二枚のどちらかを疑う」
「だから本物の馴鹿札を落とす」
イルヴァは敵が見つけやすい雪面へ、腰袋ごと投げた。本物が捨てられていれば、敵はそれを隠された退路と読む。賢い相手ほど、拾った答えを自分の推理だと思いたがる。
氏族は鷹の道へ入った。老人の橇を押し、子供を雪穴へ通す。イルヴァは最後に残り、石原へ向かう騎馬の松明を数えた。全部で百九十七。三騎だけが峡谷へ来る。
彼女は短弓へ三本の矢を番えた。骨札と同じ数だった。
背後でセドが鷹札を掲げる。雪塊の向こうから、全員が抜けたと声が届いた。
イルヴァが三騎へ矢を放った瞬間、南営の柱に黒い馴鹿旗が上がった。