不死の美食家は星を減らす

王都一の料理店〈金冠亭〉に、覆面批評家フィオナが来た。

料理長バルドは三つ星を守るため、歓迎の笑みを浮かべた。だが彼女が昨月、弟子への暴力と腐った食材の使用を調べていたことも知っている。

「特別な食前酒でございます」

銀杯には、香草酒と見せかけて〈舌枯らし〉が入っていた。飲めば味覚を失い、十分後には呼吸も止まる。病死なら批評記事も出ない。

フィオナは一口飲み、目を閉じた。

バルドは厨房口で待つ。舌が痺れるまで十秒。

彼女は二口目を飲み、首を傾げた。

「香草は北部産ですね。ただし、苦みの奥に舌枯らし。保存瓶の蓋が錆びていたのでしょう」

客席がざわめく。バルドの笑顔が引きつった。彼女は毒を言い当てたうえで、平然と杯を空にしている。厨房口では、火傷を隠して働かされていた弟子たちが手を止めた。批評家を黙らせるはずの一杯が、料理長の秘密を店中へ知らせる合図になっていた。

「冗談がお上手だ」

彼は合図を送り、厨房から蓋つきの皿を出させた。開けた瞬間、〈厨房竜の蒸し焼き〉を装った爆炎魔法が発動する。毒殺に失敗したとき用の、店ごと証拠を消す仕掛けだ。

蓋が上がり、炎と煙が客席を呑んだ。窓が吹き飛び、卓が炭になる。バルドは耐火扉の陰から、批評家の死を確信した。

煙が晴れる。

焼け落ちた看板が外で音を立てる。その中でフィオナは同じ姿勢で椅子に座り、空の銀杯を鼻先へ持ち上げていた。彼女の周囲だけ、卓布も蝋燭もそのままだ。

「毒は味の欠点ではありません。犯罪です。爆炎は演出としても過剰ですね。食前酒の温度だけは適切でしたが、それで帳消しにはなりません」

「お、お前は何者だ」

「固有職〈客人〉。招かれた場所では、主人が私に害を与えられません」

フィオナは懐から星形の評価札を三枚出した。一枚、二枚と卓へ置き、最後の一枚だけを指で裏返す。裏面には王都衛兵隊の捜査許可印があった。

入口で鎧の音が響く。

「本日の評価は、星ではなく罪状でお返しします」

包丁を握って威嚇したバルドが、一歩退いた。