丸いものは急がない
霧の神殿の司祭アルディオは、たこ焼きを丸ごと口へ入れた。
「熱っ」
交流港の屋台主が止める間もなかった。アルディオは目を潤ませ、口を開けたまま手で風を送る。周囲の客から笑いが起きたが、意地悪な音ではない。
「中があれほど熱いとは、外から分からない」
「だから、少し穴を開けて冷ますんです」
舟形の皿には、丸いたこ焼きが五つ。濃いソース、白いマヨネーズ、青海苔。上では薄い鰹節が湯気に揺れ、まるで生きているようだった。
アルディオは神殿で、相談役を務めている。朝から晩まで人々の悩みを聞き、答えを求められる。沈黙すると不安にさせると思い、何かしらの言葉をすぐ返してきた。今日も休暇なのに、伝書板には未返信の相談が十二件並んでいる。
二つ目は箸で割った。中から湯気がふわりと上がり、柔らかな生地の中に、小さな蛸が見えた。息を三度吹きかけてから食べる。外は香ばしく、中はとろりとして、出汁の味がソースの奥から現れた。
「冷ますと、味が逃げると思っていた」
「熱すぎると、味どころじゃないでしょう」
隣に座っていた会社員が、自分の皿を指した。
「僕は猫舌だから、四つに割ります」
「丸い形を壊してもよいのですか」
「腹に入れば同じです」
アルディオは三つ目を四つに割った。少し不格好になったが、蛸の弾力も、紅生姜の細かな辛さも、今までよりよく分かった。
伝書板がまた光る。〈進むべき道が分かりません。すぐ答えをください〉とある。
アルディオは長い返事を書きかけ、消した。
〈今夜は眠り、明日の朝もう一度考えましょう。私もそうします〉
送ると、肩から何かが一枚落ちたようだった。
最後の一個は、屋台主と話しながら十分ほどかけて食べた。冷めかけた生地はもっちりし、青海苔の香りが穏やかに残る。
皿の底では、冷めたソースがつやりと丸い跡を残していた。
港には潮風が吹いていた。アルディオは神殿へ戻る前に、伝書板の灯りを消した。袖にはソースの甘い匂いが移り、舌にはもう熱さではなく、出汁の温度だけが残っていた。