予報より寒い衣替え

衣替え初日は、予報を裏切って寒かった。

朝から雨。気温十八度。教室中が白い半袖で震えていた。

「昨日までブレザーだったのに」

誰かが文句を言うたび、先生は「移行期間だから着てもよかった」と答えた。

私は一人だけ、鞄へブレザーを入れていた。母が無理やり持たせたのだ。

隣の席は、腕をさすりながら強がっていた。

「全然寒くない」

唇が少し青い。

私はブレザーを机の上へ置いた。

「着る?」

「自分が着れば」

「私は平気」

「じゃあ俺も平気」

二人とも嘘だった。

一時間目は私が着た。二時間目、隣へ渡した。三時間目、また返ってきた。休み時間ごとに一着のブレザーが机を越えた。

袖口には相手の体温が残り、着るたび妙に落ち着かなかった。

昼休み、友達に「共同所有?」と聞かれた。

隣は即座に答えた。

「寒冷地協定」

放課後も雨は止まなかった。

バス停には屋根があるが、風が横から入る。私はブレザーを着ていた。隣がくしゃみをした。

「次、そっち」

「もうバス来る」

「あと十二分」

仕方なく脱ごうとすると、隣が片方の袖だけ腕へ通した。

「何してるの」

「半分」

一着のブレザーへ、左右から腕を通した。背中は閉じず、肩がぶつかる。見た目はひどかったが、風は少し防げた。

「これ、誰か来たら終わる」

「寒冷地協定だから」

笑った拍子に、肩がさらに寄った。

翌日は晴れ、気温二十九度。

隣は本当に夏服だけで来た。私もブレザーを置いてきた。

朝の教室で目が合うと、どちらも少し残念そうな顔をした。

「今日、暑いね」

「協定解除」

そう言いながら、机の間だけは昨日より近かった。

衣替えの日に覚えているのは、白いシャツのまぶしさではない。

季節を間違えた一着のブレザーと、その中で分けた十二分の温度だ。

その後、寒い日が来るたび協定は再締結された。上着がなくても、どちらかが窓を閉め、温かい飲み物を半分渡す。それが新しい条文になった。

秋に本物の寒さが来たころには、協定という言い訳がなくても、自然に隣へ座れるようになっていた。