二服目
最後の茶会が終わると、客は全員帰った。
茶室に残ったのは、三年の莉世と鞠子だけだった。畳にはまだ膝の跡があり、釜の湯が小さく鳴っている。
二人は三年間、どちらが正客に褒められたかを数えてきた。
莉世の点前は正確だった。柄杓の角度も、帛紗を置く位置も、教本の写真のようだ。
鞠子の茶は、なぜか客がよく笑った。棗の蓋を一度落としても、茶杓の銘を言い間違えても、席がほどける。
莉世はそれを「雑」と呼び、鞠子は莉世を「時計」と呼んだ。
「最後に一服、点てて」
鞠子が客座へ移った。
「もう道具、片づけるんだけど」
「私、莉世のお茶を客として飲んだことない」
「稽古で何度も」
「採点しながらでしょ」
莉世は仕方なく、もう一度釜の前へ座った。
水指の蓋を取り、茶碗を温める。手は疲れていたが、動きは崩れなかった。最後だからこそ一つも間違えたくない。
差し出した茶を、鞠子は三口半で飲んだ。
「おいしい」
「感想が浅い」
「すごく莉世の味」
「それ、褒めてる?」
「うん。少し苦くて、まっすぐ」
茶碗が戻る。
「次、私」
鞠子が亭主座へ来た。
彼女は最初から間違えた。帛紗を腰につけたまま探し、莉世に笑われる。けれど湯を注ぐころには、茶室の空気が柔らかくなっていた。
出された茶は、泡が少し粗かった。
莉世は一口飲み、眉を寄せた。
「薄い」
「お湯、多かった?」
「多い。でも、飲みやすい」
「それは褒めてる?」
「半分」
鞠子が笑った。
二人は道具を片づけた。釜の火を落とせば、本当に終わる。
莉世は炭へ灰をかける前に、もう一度茶筅を取った。
「もう一服」
「どっちが点てる?」
「二人で」
一つの茶碗に、莉世が抹茶を入れ、鞠子が湯を注いだ。茶筅は莉世が振ったが、途中で鞠子に渡した。
出来上がった茶は、濃さも泡も中途半端だった。
作法にないので、二人は茶碗を回さず、交互に飲んだ。
「変な味」
「時計と雑を混ぜたから」
「でも、嫌いじゃない」
「私も」
最後の一口を、どちらが飲んだかは覚えていない。
覚えているのは、空になった茶碗の底を見た瞬間、勝ち負けを数えていた三年間が、ようやく一つの席になったことだけだった。