二枚目の二次会券

二次会の受付開始まで十分。永倉景は、スマートフォンに表示した電子券を二枚、椎橋朱里へ見せた。

半年前、朱里から〈二次会、二枚お願い〉と届いた。大学の同窓会アプリを管理している景にしか買えない券だった。

別れて一年。なのに二枚と言われ、景は一枚を朱里、もう一枚を自分のためだと思った。券を買った夜から、彼は表示名を消せず、二枚並んだ番号を何度もスクリーンショットしていた。結婚報告を聞いたあとも、その解釈だけは捨てられなかった。式が終われば、彼女は一度だけ自分と会場を抜けるのではないか。そんな馬鹿な期待で、今日は招待客でもないのに来た。

白いドレスから色直しした朱里が、裏口へ現れた。

「助かった。もう一枚、まだ使ってない?」

「俺の分じゃなかったのか」

朱里の表情が止まる。

「どうして?」

「二枚って、そういう意味だろ」

「彼がアプリに入れないから、私と彼の分を――」

その瞬間、景のチャット画面へ古い通知が一件届いた。

〈彼、機種変更で認証できなくて〉

送信日時は半年前、〈二枚お願い〉の三分前。障害で保留されていたメッセージが、アプリ更新と同時に今さら配信された。

景は画面を見せた。朱里は何度も「ごめん」と言った。彼女は説明したつもりだった。景は最初の一文が届かなかったことすら知らず、半年分の希望を一枚の券に貼りつけていた。

「じゃあ、もう一枚は新郎に渡せばいい」

「彼の分は再発行してもらった。これは、今日来た彼のお父さんに」

新郎は父親と長く絶縁していたが、式の最後に姿を見せたという。朱里は二人を同じ会場へ入れるため、余った券を探していた。

扉の向こうで、年配の男が頭を下げて待っている。景は二枚目のQRコードを彼へ転送した。

一枚目は自分の端末に残った。招待されていない景でも、券があれば入れる。

彼は受付へ向かわず、半年遅れで届いたメッセージを削除した。使用済みにもならない一枚目の券ごとアプリを閉じ、駅へ続く階段を下りた。