二番だけのカップ
牧浦千鶴は古書茶房「紙片」で、同人誌の休刊告知を書いていた。
二人で作った第一号には、千鶴の文章より相方の写真のほうが多かった。次号の企画メモを開くと、写真を置く予定だったページが白いまま並ぶ。その白さを、欠落としか呼べずにいた。
相方からは、誌名を残してほしいとも、終えてほしいとも言われていない。決める役目だけが千鶴に残っていた。
創刊から一緒だった相方が、春に海外へ移った。喧嘩ではない。生活が変わり、続けられなくなっただけだ。それでも千鶴は、一人で出すものを同じ誌名で呼ぶのは違う気がして、第一号を最後にしようとしていた。
〈短い間でしたが〉まで打ったところで、店主がカップを置いた。
乳白色の厚い陶器で、側面には何も描かれていない。持ち手の下だけが茶色く染まり、長年つままれてきたことがわかる。
飲み終え、何気なく底を見ると、青い数字の「2」があった。
店主へ尋ねる前に、棚の端に古い写真があるのが目に入った。開店当時のカウンターに、同じ形のカップが二つ並んでいる。一つには「1」、もう一つには「2」。今あるのは二番だけらしい。
店主は空のカップを受け取ると、底の数字を確かめた。乾いた布の上へ伏せるのではなく、数字が見えるよう横向きに置く。欠けた相棒の場所を埋めようとはしなかった。
千鶴は休刊告知へ戻った。
一号だけで終わるから、きれいなのかもしれない。けれど二号を出せば、一号の意味が変わる。二人で始めたことを、一人で盗むのではなく、一人分を足せるのかもしれなかった。
会計で、店主はポイントカードの空欄へ青い印を押した。インクが薄く、数字のようにも見える楕円が二つ重なった。店主は押し直さず、そのまま返した。
千鶴は店の外へ出る前に、休刊告知を削除した。誌面編集のアプリを開き、新規号の番号へ「2」と入力する。
表紙の仮タイトル欄には、〈一人分の続き〉と打った。
公開予定日はまだ空白だったが、千鶴は保存ではなく「制作開始」を押した。