亡霊騎士の鐘が帰還を告げる

城壁へ迫る亡者の軍勢、その先頭にシエラの兄がいた。

五年前、北方軍は「敵前逃亡した」とされ、全員の名を墓碑から削られた。遺族には恩給どころか罰金が課され、制服や手紙まで没収された。実際には将軍に囮として捨てられ、死後も黒旗騎士に縛られていたのだ。

シエラは夜明け前、亡者を操るボス――黒旗騎士を討った。

聖剣ではない。兄から教わった古い号令を叫び、反射的に整列した騎士の懐へ潜り込み、旗の留め具を短剣で断った。支配の旗が落ちた瞬間、鎧の中の魂も崩れた。

残された限定ドロップは、小さな真鍮の《帰営鐘》

彼女の《未帰還者指定》は、ボスに奪われた者がいる限り、その者たちを解放する品を確定で落とす。

黒旗騎士は消えた。それでも亡者の軍勢は止まらない。最後の命令だけが骨に残り、王都を敵陣と思い込んで進んでくる。

「射て!」

城壁の指揮官が弓兵へ命じた。

シエラは射線の前へ立ち、鐘を一度だけ鳴らした。

澄んだ音が戦場を渡る。

亡者たちの足が止まった。錆びた剣が一斉に下がる。朽ちた軍装へ、消されたはずの名前が光となって戻っていく。

兄が兜を外した。骸骨の顔なのに、敬礼の癖は昔のままだった。

「北方軍、囮任務を完了。生存者ゼロ。敵軍侵攻を五日阻止」

百人、千人と同じ報告を繰り返し、最後に全員が城へ背を向けた。彼らは攻めてきたのではない。帰る許可を待っていたのだ。

その報告は城壁の記録石にも刻まれ、五年前の軍令書が自動的に照合された。囮命令へ署名した将軍の名が赤く浮かび、衛兵が観覧席から彼を連れ出す。

王が城門を開く。

「北方軍を、名誉ある戦死者として迎える」

亡者たちは門をくぐらず、道の両側に並ぶ家族へ一礼した。兄はシエラの前まで来ると、折れた認識票を手渡す。

「ただいま」

「おかえり、兄さん」

その言葉を聞いて、軍勢は朝霧のようにほどけた。地面には認識票だけが残り、墓碑へ刻む名は一つも欠けていない。

鐘がシエラの手の中で静かに割れ、最後の音とともに通知が届く。

【亡霊ボス限定SSR《帰営鐘》――未帰還兵三千八百十二名、全員帰還を確認】