代わりの一人
仁科源志は昼休みになると、求人アプリの待機順位を更新する。
〈あなたは二位です〉
〈欠員発生時、自動選考されます〉
失業して四か月。毎日見ている表示だった。採用と解雇の数を同じに保つため、新しい人間を一人雇うと、同じ職種で最も評価の低い社員が一人だけ外される。それが《雇用均衡》のルールだ。誰かが上がれば誰かが下がる。求人は空席ではなく、椅子取りになった。
源志が狙っているのは、物流会社の配車係だった。前職と同じ仕事で、家からも近い。
同居人の津雲夏海は、その会社の夜勤で働いている。源志の失業中、家賃を多く払い、帰宅すると眠そうな顔で「順位上がった?」と聞いてくれた。
夏海の評価が下がった理由も源志は知っていた。彼が面接で倒れた夜、夏海は勤務を途中で抜けて病院まで来た。欠勤一回で七点落ち、そのまま戻らなかった。「助けた相手が就職したら取り返せる」と、彼女は笑っていた。
その日、画面が初めて金色に変わった。
〈採用決定〉
〈三十秒以内に受諾してください〉
源志は立ち上がり、コンビニの窓際で手を震わせた。夏海に知らせようとしたが、通話より先に詳細が開く。
〈今回の採用に伴う代替終了者〉
〈津雲夏海 勤務評価71.04〉
写真には、社員証用に無理やり笑った夏海が映っていた。
受諾すれば、彼女が職を失う。辞退すれば三位の候補者へ権利が移る。だが代替終了者は変わらない。会社が一人採る限り、最下位の夏海は外される。
残り十二秒。
夏海からメッセージが来た。
『内定画面、出た? こっちにも通知きた』
『押して』
『二人とも無職になるよりいい』
源志は入力欄に「別の社員を」と打ったが、問い合わせは選考に影響しないと消された。残り三秒。受諾を押した。
〈仁科源志 入社確定〉
ほぼ同時に、夏海から画像が届く。
〈雇用終了。後任者への引継ぎを開始してください〉
後任者名には源志の名前があった。
夜、彼は玄関で待った。帰ってきた夏海は何も言わず、会社の鍵を彼の掌に置いた。源志は、まだ温かいその鍵を握れなかった。