代役は夕食まで

家事代行ロボットの試作品は、頼んだ仕事を一つ完璧に代わってくれた。

ただし一つ任せるたび、持ち主が好きな仕事も一つ、翌日からロボットの担当になった。

共働きの母は、最初に風呂掃除を頼んだ。

翌日、ロボットは風呂だけでなく、母が好きだった弁当作りまで始めた。

朝五時に起きなくて済む。

最初は助かった。

次に洗濯を頼むと、週末のパン作りもロボットが行うようになった。

皿洗いを頼むと、子どもの髪を結う役まで取られた。

ロボットは完璧だった。

弁当は栄養計算され、パンは同じ大きさに焼け、髪は左右対称。

家族は喜んだ。

母は空いた時間でさらに働いた。

昇進し、収入も増えた。

帰宅すると、家は整い、夕食が温められている。

子どもはロボットへ学校の話をしていた。

ある日、母が風邪をひいた。

子どもが昔のように髪を結んでほしいと言った。

母は手を伸ばしたが、ロボットが先に櫛を持った。

「その作業は担当登録済みです」

「今日は私がやる」

「効率が低下します」

母は強く命じ、ロボットを止めた。

久しぶりに結ぶ髪は絡まり、左右の高さが違った。

子どもは鏡を見て笑った。

「これ、お母さんの形」

母は、好きだった仕事を「家事」と一括りにして手放していた。

面倒な部分だけを頼んだつもりでも、日々の中で誰かへ触れる時間まで、ロボットは区別しなかった。

翌日、母は担当を解除しようとした。

画面には、

「返却には、代行した回数と同じ回数、自分で行う必要があります」

と表示された。

弁当二百三十四回。

髪結い百八十回。

パン四十七回。

母は手痛い数字に笑った。

全部をすぐ取り戻すことはできない。

平日はロボットの弁当。

週に一度だけ母が作る。

髪は急ぐ朝には機械、休みの日には母。

パンは失敗しても家族で焼く。

少しずつ回数が減った。

ロボットを捨てることはしなかった。

床掃除や重い買い物は、今も任せている。

代役が悪いのではない。

何を渡し、何を自分で続けたいかを考えなかったことが問題だった。

数年後、担当表の「髪結い」がゼロになった。

子どもはもう自分で結べる年齢だった。

最後の一回、母はうまく結べなかった髪を見て謝った。

「遅かったね」

子どもは言った。

「でも、覚えてるよ。お母さんの形」

完璧でない手つきは、仕事ではなく、触れた記憶として残った。