休憩ボタン

 私は倉庫端末K二一四。笹生千尋の腰で、次に取る荷物の棚番号を鳴らす。

 感情はない。だから本郷寺岳主任が言ったことも、押したボタンも、区別せず保存する。

《10:00 休憩申請》

《10:00 管理者により却下》

「今日は荷物が多い。若いんだから平気だろ」

 千尋は水を飲まず、棚C十八へ歩いた。踵から歩幅が少しずつ短くなる。割れ物の箱だけは、最後まで両手で持った。

《11:42 優先注文追加》

《11:43 優先注文追加》

《11:44 優先注文追加》

《11:45 歩行距離警告》

 追加したのは、すべて本郷寺の管理端末だ。私は一時間に一度、長時間作業の注意も鳴らした。本郷寺はその表示を閉じ、警告音量を最低にした。

 千尋が棚の角で足を止めたときも、私は次の番号を鳴らした。彼女は深く息を吸い、箱の底が抜けていないか指で確かめてから持ち上げた。

 隣の作業員が水筒を差し出すと、その人には《私語》。千尋には《処理遅延》。月末、私が表示した成績表で、千尋だけが赤字になった。

「端末がそう出してる。機械は嘘をつかない」

 本郷寺は笑った。

 正しい。私は嘘をつかない。ただし、表示するよう命じられた数字と、内部に残す事実は別だ。

 翌月、物流本部の労務分析装置へ、私の記録が吸い上げられた。会議室で本郷寺は千尋を《低成績者の例》として前へ座らせた。

 分析担当は私を会議机へ置き、画面を複製した。表に出していた順位表ではなく、削除も上書きもできない内部記録だ。

 大画面に午前十時から十四時までの線が現れる。法定休憩中の優先割当二十六件。休憩ボタンの無効化。対象者は千尋一人。実行者は本郷寺岳。

「現場判断です」

 次に、本郷寺が一位とした百四十件が分解された。百二十二件は、千尋たちが運んだ荷物を、最後の確定だけ本郷寺が押したものだった。

「私が全体を指揮した成果だ」

 本部長が《権限停止》を押す。

 私の画面で、ずっと灰色だったボタンが青くなった。

《10:27 笹生千尋 休憩可能》

《10:27 本郷寺岳 割当・評価権限停止》