傷を食べる灰色の布
治療院の廊下には、負傷兵が四十人並んでいた。
聖女は王子のかすり傷を診るため城へ呼ばれ、薬師たちは「治癒費を払えない者は後回し」と扉を閉めた。残された見習いガランには、包帯一巻きしかない。
一番手前の少年兵は腹を裂かれ、息が浅い。その母親は治療費の代わりに結婚指輪を差し出したが、受付係は価値が足りないと床へ落とした。全員を診る時間はない。せめて一人を選べと迫られ、ガランは拳を握った。
その時、空の薬箱から声がした。
《条件達成:治療順位を身分で変えなかった者》
《主人公専用排出枠〈救護〉を解放》
《一度だけ、あなたの治療理念に適合する道具を排出します》
引いて現れたのは、洗いすぎて灰色になった布一枚。
《傷喰い布》
《触れた者が抱える“治されるべき傷”を吸収する》
ガランは少年兵の腹へ布を当てた。血が吸われるのではなく、裂け目そのものが布へ移った。少年の皮膚は閉じ、灰色の布に赤い亀裂が走る。
布を次の患者へ当てる。折れた脚、焼けた腕、毒矢の痕。傷は次々に布へ移るのに、布は破れない。四十人目の老兵が立ち上がった時、廊下には苦鳴の代わりに靴音が満ちた。
だが布はまだ震えていた。
ガランが手を離すと、灰色の端が閉ざされた薬師室の扉へ伸びる。金を払えない者を見捨てた罪悪感、命を値札で測り続けた心の歪み――それらも「治されるべき傷」として吸い上げたのだ。
扉が開き、薬師長が膝をついた。
「私は、何をしていた……」
そこへ王宮の使者が駆け込む。
「王子の傷が痛む! 聖女だけでは足りぬ、ガランも来い!」
ガランは患者たちを見回し、使者へ包帯の空箱を渡した。
「王子はもう聖女に診てもらっています。こちらには、今まで誰にも選ばれなかった人がいる」
立てるようになった四十人が、無言で彼の背後へ並んだ。
灰色の布からすべての亀裂が消え、銀白色へ変わる。
《生命級神器〈万傷平等布〉》
《世界初完全治療:肉体四十件、魂一件》
《専用治療者ガランの優先順位――命はすべて一位》