写真係ではない夜

桐原渚は、集まりの終わりになると必ずスマートフォンを渡された。

「渚、写真うまいから」

褒め言葉の形をしているので断りにくい。大学時代の友人との食事でも、渚は椅子から立ち、照明を避け、全員の顔が小さくならない角度を探した。帰宅して写真を送る頃、自分が一枚も写っていないことに気づく。

二十七歳の誕生日会でも、ケーキの蝋燭が消えると友人がスマートフォンを差し出した。

「いつものお願い」

渚は受け取りかけた。立ち位置も分かっている。壁際から撮れば、窓の反射が入らない。

けれどテーブルの端には、渚の取り皿だけが残っていた。

去年共有されたアルバムには、渚の姿が一枚だけあった。窓ガラスに映り込んだ、小さな影だった。その写真を見つけたときも、撮影が上手だったと褒められた嬉しさで、寂しさを押し込めた。写真を撮るたび席を離れ、戻ると会話が次へ進んでいる。誰も悪くない。渚自身が、頼まれる前から立っていた。

「今日は撮らない。私も入る」

言うと、友人たちは一瞬黙った。渚はその沈黙を埋めるように笑いかけ、やめた。

店員へ頼むほどでもないということになり、スマートフォンをグラスに立てかけてタイマーを使った。十秒の表示が減るあいだ、全員が慌てて椅子を寄せる。渚は端へ逃げず、空いていた真ん中の隙間に肩を入れた。

隣の友人の髪が頬に触れ、反対側から肘がぶつかった。構図を整える側では分からなかった窮屈さが、今は少しだけ嬉しかった。

撮れた写真は少し傾き、友人の一人は目を閉じていた。もう一枚、と誰かが言ったが、渚は画面を拡大しなかった。

「これでいいよ」

ケーキのクリームが溶け始めている。渚は自分の皿へ残っていた苺を載せた。

帰りの電車で写真が共有された。渚はいつものように明るさを直そうとして、編集画面を閉じた。中央で笑いきれていない自分も、閉じた目も、そのまま残す。

写真係を断った夜、渚は上手に写れたわけではない。ただ、一枚の中から自分を外さなかった。