冥婚の鐘が鳴る前に

死者を一人も蘇らせられなかった死霊術師ヴェスカは、王都を守る代償として不死王との冥婚を命じられた。婚姻すれば彼女の魔力は墓地へ縛られ、二度と地上へ戻れない。

地下聖堂で、黒い鐘が鳴るのを待つ。疫病の夜、ヴェスカは百人の魂へ呼びかけ、誰からも返事を得られなかった。同行していた三人も、その無力さを知っている。失敗した死霊術師を迎えに来る者などいない。王都では既に彼女の部屋が封鎖され、私物は棺形の箱へ詰められていた。地上に戻る場所は、儀式の前から消されたことになっている。棺箱の蓋には既に〈不死王妃遺品〉と札が貼られ、彼女は生きたまま過去形にされていた。

一打目の直前、聖騎士イグナーツが棺の蓋へ剣を置いた。

「聖堂から持ち出せば破門だ。だから預ける。返す場所は地上にしてくれ」

魔女ユスラは参列者用の長椅子から骨飾りを払い、隣を空けた。温かい毛布まで敷いてある。

「墓の中は冷える。こっちは二人分、いや四人分ある」

石門の外では幽霊ハミドが、自分の姿を鎖へ絡め、門が閉じないよう踏ん張っていた。

「肉体はないが、門番くらいはできる。朝まででもな」

不死王が笑い、蘇生に失敗した者に価値はないと言った。するとハミドが鐘の内側へ潜り、刻まれた術式を光らせる。ヴェスカの呼びかけに魂が答えなかったのは、死者たちが既に王の呪いで鐘へ封じられていたからだった。

ヴェスカが杖を向けると、百の声が一斉に「聞こえていた」と返した。鐘は内側から砕け、冥婚の契約も消える。

それでも彼女は階段を上がれなかった。成功した今だけは必要とされても、次に誰も救えなければ、また地下へ置かれる。

「私は、死者を戻せないことがある」

イグナーツは剣を取らない。ユスラは毛布を畳まない。ハミドは門から離れず、薄く笑った。

「戻せないなら、残った者で迎えに行く」

ヴェスカは棺の指輪を外し、空いた長椅子へ座った。剣が足元を守り、開いた門の向こうに朝がある。地上には三つの居場所があり、その全部が彼女の失敗を知ったまま残っていた。