冬至前に鉱山を開けた者

 冬至祭の晩、ハルセオン侯爵は黒い鉱石を卓上へ投げた。

「王領鉱山を勝手に掘ったのはフィロメラ・ユーンベルクだ。持参領を増やすため国を盗む女との婚約を破棄する」

 鉱山は婚礼後、彼女の持参領になる予定だった。そのため客は、利益を急いだのだろうと納得しかけた。

 しかしフィロメラが欲しかったのは鉱石ではない。坑道の安全柵と、崩落で父を失った家族への年金だった。婚礼後の採掘利益をすべて整備へ回す計画を立てると、ハルセオンは『金のなる山を慈善に捨てるのか』と鼻で笑った。

 数日前から、山麓では夜ごと車輪の音がしていた。彼女は調査を求めたが、婚礼前の花嫁に権限はないと退けられた。その同じ口で、今は権限を悪用した罪を着せようとしている。フィロメラは怒鳴る代わりに、鐘を待った。

 フィロメラは鉱石ではなく、まだ鳴っていない冬至鐘を見た。

「鉱山の封印が解けるのは、鐘の後です」

「だからこそ、君は先に破った」

「契約第六条は、破った者を忘れません」

 鉱山監督ジェルヴェが、石粉に汚れた契約原本を運んできた。第六条には、冬至以前に封印へ触れた者の名を記す一文だけがある。

 フィロメラが頁を開くと、煤色の文字が浮かび上がった。

『封印解除者、ハルセオン。冬月二十日、深夜』

 冬至鐘は、今まさに鳴り始めた。鉱山を先に開いたのは、婚約者を断罪した本人だった。

 封印の煤まで、彼の署名の輪郭を縁取っていた。

「試掘だ。君の領地になる場所を調べてやったのだ」

「では、なぜわたくしの盗掘として告発したのですか」

 鐘の音だけが答えた。

 ハルセオンは顔色を変え、鉱山利益を半分渡す、婚約破棄も取り消す、と条件を並べた。

 フィロメラは指輪を鉱石の脇へ置く。

「半分を恵まれる必要はありません。契約どおり、鉱山はわたくしの領民のものです」

 元婚約者へ背を向けると、ジェルヴェが坑道ではなく朝へ向かう階段で手を差し出した。フィロメラは迷わず、その手を取った。