冷めない火を運ぶ者

「温度を変えられず、保つだけ? 火も氷も生めない外れだ」

鍛冶王ドゥラグは、クオンの鑑定板を炉へ投げ込んだ。

《スキル:保温――触れた一つの物の温度を、一時間変化させない》

熱い物を熱いまま、冷たい物を冷たいままにするだけ。火床のそばなら普通の箱でもできると笑われ、クオンは灰を捨てる役へ回された。

灰捨て場までの石段で、クオンは何度も焼けた鉄くずを運んだ。火床から離れた熱は、風と雪に少しずつ奪われる。ならば一度も奪わせなければいい。彼の力は熱を増やさない代わりに、世界が当然のように徴収する“冷える時間”を、一時間だけ拒めるのだった。鍛冶師が炉で作った一瞬の最良を、遠い場所まで壊さず届けられる。それは炉を持ち歩くのと同じだった。

その日の深夜、氷巨人が山門を破った。

巨人の胸には青白い核があり、近づく武器を瞬時に凍らせる。赤熱した槍も、投げる途中で霜に覆われ、胸へ届くころには脆い鉄片になった。

ドゥラグは最後の星鉄を炉へ入れた。

星鉄は白く輝く温度でだけ氷核を貫ける。だが炉から山門までは百歩。どれほど急いでも途中で冷える。

「炉を門まで運べ!」

「間に合いません!」

職人たちが青ざめる中、灰まみれのクオンが火箸を取った。

炉から引き出した槍先は、太陽の欠片のように白い。彼は素手で柄の根元へ触れる。

《保温》

槍先の輝きが止まった。

風に晒されても、雪を浴びても、一片の熱も失わない。クオンは槍を担いで山門へ走る。氷巨人が息を吹きかけ、柄も髪も白く凍った。それでも星鉄だけは炉の中と同じ色で燃えている。

足が滑る寸前、クオンは槍を投げた。

白い線が吹雪を裂き、巨人の胸へ刺さる。氷核は溶ける暇さえ与えられず、内側から真っ赤に割れた。

巨人が雪崩のように崩れ、朝の光が山門へ差した。

ドゥラグは炉の灰から焦げた鑑定板を拾い、王印のある面をクオンへ向けた。

「火を作る者は大勢いる。だが火を百歩先まで同じ火のまま運べる者は、お前しかいない。今日から王炉の鍵を預ける」