十万の軍勢を一括査定した結果

国境砦を包囲した敵は、味方の百倍いた。

司令官は降伏文書へ署名しようとしている。荷駄鑑定士トルガが止めると、将校たちは腹を抱えて笑った。

「荷車を数える男が戦を語るな」

【一括鑑定:同じ目的で集められた複数の対象を、一つのまとまりとして評価する】

トルガは普段、麦袋百個を一山として査定していた。だが眼下の兵も、同じ目的で集められた一つのまとまりだ。

彼は十万の敵軍全体を対象にした。

視界に巨大な査定票が開く。

兵力は圧倒的。武器も良質。だが「結束価値」の欄だけが、ゼロだった。内訳には、三か月の給金未払い、将軍による軍資金横領、故郷へ帰りたい者九万六千人とある。

「司令官、金庫に残る給金を全部、矢に結びつけてください」

「敵へ金を贈る気か!」

「敵ではありません。代金を払われていない労働者です」

砦から、銀貨と横領帳簿の写しを結んだ矢が降った。

トルガは拡声魔法で叫ぶ。

「お前たちの三か月分は、敵将の私邸地下にある! 砦を攻めるより、取り返しに行く方が近い!」

最初の一人が槍を下ろした。次に百人。やがて地面を揺らすほどの兵が反転し、豪華な天幕へ向かう。

敵将は斬首を命じたが、命令を聞く者がいない。十万の軍勢は一瞬で、給金を取り戻す十万の債権者へ変わった。

砦の門は一度も破られなかった。

署名しかけた司令官は、震える手で降伏文書を破る。

「お前には、あれが軍ではないと見えたのか」

「いいえ。一つの商品として見たら、まとめ方が悪かっただけです」

敵兵たちは砦へ雪崩れ込まず、銀貨の矢を拾うたび互いの未払い額を確かめた。やがて彼らは武器を置き、砦の食堂で味方兵と同じ鍋を囲む。捕らえられた敵将の天幕からは、兵の家族へ送るはずだった金貨が山ほど出た。トルガはそれも一括査定し、持ち主十万人へ一枚残らず分配する帳簿を作った。

破られた降伏文書の裏面は、帰郷を望む兵へ安全を保証する通行証として使われた。

兵士たちの歓声とともに、トルガの職業欄が軍旗の形に展開した。

【職業:荷駄鑑定士 → 群体価値解析将】