十二枚目の銅貨
ロドリクは銅貨を十二枚持っていた。
敵軍に囲まれた港都グラードでは、銅貨一枚でパン半斤、三枚で女、十二枚で番兵一人の良心が買えた。
最後の一枚だけ、縁に三つの傷がある。傷は門番長が幼い息子たちへ、数を教えるためにつけたものだった。今夜は家族の形見が、街一つの値段になる。西門の門番長へ渡せば、内側から閂を外す約束の印だ。ロドリクはその銅貨を味方へ届けるため、敵の包囲陣を抜ける。
敵陣には三つの関所があった。賄賂を出さなければ通れない。出し過ぎれば、最後の一枚が残らない。
最初の関所で兵が手を出した。
「通行税、五枚」
ロドリクは三枚を掌へ落とした。
「死体運びに五枚払う街があるなら、俺もそこへ住む」
荷車には石灰をかぶった死体が二つ。どちらも本物だった。兵は臭いに顔を背け、三枚で通した。
二つ目では四枚取られた。残り五枚。
三つ目の関所にいたのは、数字の読める伍長だった。荷車を調べ、ロドリクの靴底まで剥がした。
「死体一つにつき埋葬税三枚。二つで六枚だ」
「五枚しかない」
「なら一体置いていけ」
伍長は笑った。死体の下には何も隠していない。だが一体を置けば、港都で身元を問われる。二人は門番長の息子たちだった。敵に処刑され、見せしめに吊られていたのを、ロドリクが下ろしてきた。
三つ傷の銅貨だけ守っても、息子を置けば門は開かない。
ロドリクは荷車の布を直した。二人の首の切断面へ石灰が入り、白い泥になっている。父親へ返すには惨すぎるが、返さない理由にはならない。
ロドリクは五枚を卓へ並べた。その中に、傷のある一枚も混ぜた。
「足りない一枚は、俺の小指でどうだ」
伍長が銅貨を数え直す。傷のあるものを親指で弾いた。
「汚い貨だ」
「だから最後に使う」
伍長は傷の銅貨をロドリクへ投げ返し、残り四枚を懐へ入れた。
「小指は要らん。次は六枚持て」
関所が開いた。
夜明け前、港都西門。門番長は二人の死体を見ても泣かなかった。ロドリクが差し出した十二枚目を受け取り、三つの傷を爪でなぞった。
「息子たちは、何か言ったか」
「何も。首が先になかった」
門番長は銅貨を握り、見張り台へ上がった。
包囲軍の交代太鼓が鳴る。
港都西門の巨大な閂が、内側から抜かれた。