十八歳の相場
霞沢悠理は昼休みになると、ゲームの追加回数を寿命五分で買う。二十七歳の彼の時間は安い。広告を見るより早く、給料を使うより罪悪感も薄かった。
父が倒れた夜、医師は延命処置の画面を示した。
《必要寿命:一年》
家族から寿命を売って治療枠を買える。ただし、移転時の変換率は売り手と受け手の年齢差で決まる。若い時間ほど、高齢の身体では大きく失われる。それが唯一の規則だった。
悠理は自分を売り手に選ぶ。
《必要支払寿命:九年四か月》
残りは八年。足りなかった。
「私なら?」
十八歳の妹・透花が端末へ顔を向けた。
《必要支払寿命:十四年》
「年下なのに、何で増える」
「若年者の一年は細胞活性が高く、高齢者へ適合させる際の損失が大きいとされています」
医師は説明書を読むだけだった。
父の意識はない。処置期限は二十分後。
「やめろ」
悠理が端末を取り上げる。
透花は静かに言った。
「父さん、来年の卒業式に来たいって」
「十四年だぞ」
「兄ちゃんは八年しか残ってない」
その言葉で、悠理は自分が毎日五分ずつ捨ててきたことを思い出した。ゲーム、電車の指定席、深夜の配達料。合計しても十四年には届かない。それでも、足りなさの一部は確実に自分が使った。
透花が確認ボタンを押した。
《十四年を売却し、患者へ一年を移転します》
父の手首に《三百六十五日》が追加される。
透花の残量は《十一年二か月》。
「大学は?」
悠理が聞く。
「四年で卒業すれば間に合う」
「そのあと」
「就職も三年くらいできるよ」
笑い方だけは、さっきまでの十八歳と同じだった。
父の処置が始まる。
端末から家族向けの購入案内が届いた。
《若年寿命の売却にご協力いただき、ありがとうございました》
《余剰変換分十三年は市場へ供給されます》
悠理は画面を二度読んだ。
父へ入ったのは一年。透花から消えたのは十四年。差の十三年は「変換損失」ではなく、商品として売られる。
問い合わせると、規約どおりだと返された。
翌朝、市場に新着在庫が出た。
《十八歳由来・高活性寿命十三年》
価格は、父の治療費の百倍だった。
悠理のゲーム画面にも広告が表示された。
《若い時間で、人生をもう一度》
彼は初めて追加回数を買わず、五分を残した。隣で透花の十四年が売れていく音だけが鳴っていた。