十秒後を仕込める者はいない
《未来予知じゃなくてボス役と打ち合わせ済み》
《攻撃パターンを知ってるだけだろ》
《神代律の予言、全部台本くさい》
神代律はコメントを読み上げ、頷いた。
「じゃあ台本を、みんなに先に渡す」
彼は配信欄へ十秒分の文章を固定した。
投稿時刻は通信会社、管理局、視聴者側の三つの時計で署名される。あとから一文字でも変えれば、固定欄が赤く警告する仕組みだ。
【右爪、尾、天井崩落、咆哮。最後に左目が自壊】
目前の混沌獣には決まった行動がない。観測するたび性質を変えるため、攻略情報そのものが通用しないとされている。
律は剣も構えず、その場に立った。
一秒。右爪が来る。律は半身で外した。
三秒。尾が床を払う。彼は爪痕の隙間へ足を置く。
五秒。天井が落ちる。砕けた石が獣の角に当たった。
八秒。咆哮が衝撃波となる。
律がしたのは、そこで一度だけ左へ首を傾けることだった。
逸れた衝撃波が落石を弾き、角へ跳ね返り、混沌獣の左目へ突き刺さる。十秒。瞳の奥の核が破裂し、巨体が崩れた。
《固定コメントと一字一句同じ》
《混沌獣の乱数種、配信開始後に生成されてるぞ》
《最後の首傾げだけで全部の軌道を繋げた?》
《予知してるだけじゃない。十秒分を一つの罠にしてる》
律は固定コメントを解除した。
「未来は見える。でも、見えるだけなら偽物でも真似できる。だから今日は、未来のほうを働かせた」
検証勢が配信の時刻署名と迷宮サーバーの乱数生成記録を照合する。打ち合わせどころか、混沌獣の個体情報は律が入室した後に初めて確定していた。
《事前共有不可能》
《AI予測でも成功率〇・〇〇〇〇〇三%》
《台本はあった。ただし書いたのは本人で、出演者は未来全部》
《疑って悪かった。予言者じゃなく演出家だった》
公式監査チャットに緑のチェックが付く。
【不正情報取得なし/未来干渉の新規技能として認定申請受理】
そして配信アーカイブの題名が、自動で書き換わった。
『予知疑惑を十秒で検証』――『十秒後にアンチの台本を破る』。