午後四時の通訳
海外部門の中途採用面接に、外部通訳が同席した。
候補者は英語が堪能だと履歴書に書いていたが、「専門用語の確認だけ」と人事は説明した。通訳はカメラを切り、表示名を「Interpreter」にしている。
質問が始まると奇妙だった。
面接官が英語で尋ねても、候補者はすぐには答えない。通訳のタイルに小さな拍手や親指の反応が出たあと、急に流暢な回答を始める。反応が二回なら肯定、赤いハートなら否定を含める、と合図しているように見えた。
私は技術面接官として、事前課題にない障害対応を尋ねた。
候補者は沈黙し、通訳の反応も止まった。やがて通訳が一瞬ミュートを外し、日本語で答えの冒頭を囁いた。
候補者は同じ文を英語に直して話した。
人事は聞き間違いだと言った。
私は会議チャットの監査記録を開いた。削除された個別メッセージが復元される。
《Q3は二回拍手》
《責任範囲はハート》
《詰まったら私が日本語で入れる》
送信者はInterpreter、宛先は候補者だった。
候補者は通訳会社の通常支援だと主張した。
しかし招待履歴を見ると、通訳会社から派遣された形跡はない。候補者自身が昨夜、個人アドレスへ面接リンクを転送している。登録された緊急連絡先と同じ姓、同じ住所。通訳は候補者の姉だった。
接続情報も、二人が同じ家庭用回線を使っていることを示した。
面接録画を速度を落として再生すると、候補者の眼鏡に別画面が反射していた。通訳が送る日本語の文章を、翻訳ソフトへ貼り付けている。入力時刻は個別チャットの送信から常に二秒後で、偶然では説明できなかった。事前の通信テスト予約も、二人だけで昨夜一時間使われていた。
人事担当は、語学力以外は高評価だと庇おうとした。
私は共有ファイルの更新時刻を示した。面接質問集が候補者のクラウドから開かれたのは昨日午後四時。閲覧者は、今日通訳として入ったアカウント。質問と模範回答を先に読んでいた。
通訳のタイルが消える。
採用責任者は内定予定の印を外し、面接記録に一行加えた。
《選考終了。通訳を必要としたためではなく、通訳を部外者として紛れ込ませたため》