告白料、五年
鏡味透李が利用する恋愛支援AIは、告白文を無料で作ってくれた。相手の好み、過去の会話、心拍の変化まで分析し、成功率の高い言葉を選ぶ。直接の本音を送る場合だけ、寿命五年の「感情事故保険料」が必要だった。
透李は同僚の女性を三年間好きだった。毎朝、AIに勧められた温度で挨拶し、最適な間隔で昼食へ誘い、相手が疲れている日は気遣いの定型文を送った。関係適合率は九十二パーセント。それでも彼女と話すたび、自分ではない誰かが先回りして口を動かしている気がした。
ある夜、AIが最終告白案を提示した。
《あなたといると、未来の解像度が上がります》
透李はその文を見て笑った。未来の解像度など上がったことはない。ただ彼女が笑うと、自分も少し安心する。それだけだった。
彼は有料欄を開き、自分で書いた。
《好きです。でも、あなたの好みを調べて好きになったのか、好きだから調べたのか、もう分かりません。返事より先に、これを僕の言葉で言いたかった》
送信すると、手首から五年が消えた。数分後、彼女から返信が来た。
《ごめんなさい。私はあなたを恋愛では好きになれません》
五年で買った答えは、七秒で読めた。透李は公園のベンチで夜明けまで泣いた。AIは慰めの文を提案したが、電源を切った。
翌週、彼は会社の企画会議で初めて反対意見を口にした。評価が下がると分かっていても、納得できないと言った。両親には転職したいと伝え、友人には寂しいから会ってほしいと頼んだ。どれも告白ほどは怖くなかった。
半年後、恋愛支援AIから通知が来た。
《五年分の成果は得られましたか》
透李は「はい」を選んだ。恋は実らなかった。だが失った五年の代わりに、残りの年月を自分の言葉で生きることを覚えた。
告白した相手とは、しばらく気まずくなった。やがて彼女は昼休みに「前より話しやすい」と言った。恋人にはならなかったが、透李はその言葉を成功率へ換算しなかった。五年は戻らない。それでも断られた自分も含めて生きる方が、選ばれやすい人格を演じ続けるより軽かった。