地面にある剣
沈む鉛塔の最上階で、雲居テッカは初心者剣を床へ落とした。
《軽石の剣》
攻撃力:1
地面に置かれている間、接触している構造物の総重量を半減します。
誰もが攻撃力しか見ず、開始村で捨てた武器だった。テッカだけは所持枠の底に残していた。
剣が床へ触れた瞬間、塔の沈下速度が半分になる。
「装備しろ! 鉛天使が来る!」
ボスの翼が壁を突き破る。テッカは剣を拾わない。拾えば重量軽減が消え、塔は地下の溶鉱炉へ落ちる。
仲間たちは素手で鉛天使を防ぐ。攻撃力一でも、剣があれば少しは戦える。だが武器として使うより、床に置く方が塔全体へ効く。
鉛天使が剣を踏み砕こうと降下する。
テッカは盾で軌道を逸らし、剣を床の亀裂へ蹴り込んだ。刀身が塔の基礎へ直接触れる。
《接触構造物:鉛塔全体》
重量がさらに正確に再計算され、塔の沈下が止まる。地下から浮力機関の音が響いた。
鉛天使は攻撃をやめ、剣の周囲へ翼を広げる。敵ではなく、塔が重すぎて浮上できないため外から支えていた守護機だった。
攻略隊は天使を倒すため、翼の鉛を削り続けていた。その破片が塔へ積もり、さらに沈下を速めていたのだ。
全員が攻撃を止め、床の鉛片を窓から捨てる。塔はゆっくり上昇し、地上の朝日へ戻った。
軽石の剣は亀裂に挟まれたまま、誰にも拾えない。
《鉛天使討伐:未達成》
《鉛塔総重量:浮上基準以下》
地上へ戻った後も、誰も軽石の剣を回収しなかった。抜けば塔が再び沈む可能性があるからだ。
代わりに亀裂の周囲へ小さな記念板を置く。
《最強武器につき持出禁止》ではなく、《置いたままのため使用中》。
武器は振るわれている時だけ役に立つという常識が、塔を重くしていた。テッカは空いた手で鉛天使の翼を修理し、守護機が自分の力で飛べるまで地面の剣を見守った。
塔の住民は、剣の上へ荷物を置かないよう白線を引いた。触れている構造物だけを軽くする仕様を、今度は誰も読み違えなかった。
《最弱剣の用途を更新――敵を軽く倒す武器ではなく、地面へ置くことで世界そのものを軽くする錘でした》