城壁葬の聖女
王都には、反逆者を古城壁の下へ埋める〈城壁葬〉という刑がある。
治癒師ヒュネアの罪は、敵国の負傷兵を治したことだった。
「命に国境はありません」
彼女が裁判でそう答えたため、大神官ベルガンは判決を一段重くした。見物人を集め、城壁の一角へ金箔の処刑印を描き、神罰であるかのように演出した。
ヒュネアは壁の下で両手を重ね、目を閉じていた。
「祈っても無駄だ。お前を守る神はいない」
「患者の包帯を替える時間を数えています」
ベルガンは顔を歪め、聖杖を振った。
処刑印が爆ぜ、巨大な城壁が前へ倒れる。石像と鐘楼まで巻き込み、ヒュネアの姿を完全に消した。土煙の向こうで鐘が一度だけ鳴った。
群衆は死を確信した。
だがベルガンだけは、鐘の鳴り方に気づいた。
落下で揺れた音ではない。決まった時刻を知らせる、短く正確な一打だった。壁の下にいるはずの女が、患者の処置時刻を数え終えたのだ。
煙が晴れる。
ヒュネアは同じ姿勢で立っていた。両手を胸の前で重ね、目を閉じたまま。城壁は彼女を境に左右へ割れ、背後に集められた敵国兵の捕虜まで無傷だった。
捕虜の一人が、彼女は戦場で自国兵より先に重傷者を治したと叫んだ。王都の兵からも同じ証言が続く。城壁葬は罪人を黙らせるための刑だったのに、崩れた壁の向こうから証人だけが残った。ベルガンは群衆の視線が聖女ではなく、自分へ集まっていることに気づいた。
記録係の筆も止まった。処刑成功と書くには本人が立ち、失敗と書けば大神官の神罰が通じなかったことになる。
「邪悪な加護だ!」
ベルガンは祭壇から聖杭を引き抜いた。罪人の魂と肉体を同時に穿つ、異端審問の最終具だ。
杭が光の尾を引き、ヒュネアの胸へ突き刺さる。白煙が噴き、周囲の瓦礫がさらに粉々になる。
煙が薄れたとき、彼女は同じ姿勢のまま目を開けた。
聖杭は胸元で止まり、先端が丸く潰れている。
検査役が震えながら神殿の測定板を向けた。毒、呪い、物理、神聖攻撃の四欄が高速で切り替わり、最後にはすべての数字が消えた。
《総合防御値――測定不能》