報酬ゼロの四人卓
記録係ノルンは、依頼書の最下段を読み落とした。
《討伐証明は角を傷つけず提出すること》
火蜥蜴を倒した後、彼は証明用だと思って角を切り取った。受付嬢は首を振り、金貨百枚の依頼票に「無効」の判を押した。
剣舞士セラフィ、火術師クレアラ、重装兵ベルガは何も言わなかった。
百枚あれば新しい装備を揃えられた。三人は何度も傷を負い、ノルンだけは後ろでペンを動かしていた。その彼が報酬を消したのだ。
依頼書を書き写したのもノルンだった。字は一つも間違えず、地図の距離も正確だったのに、最下段だけ紙の折り目へ隠れていた。受付嬢が判を押す音は、剣戟より大きく聞こえた。
食堂へ向かう途中、三人の装備には今回の傷が残っていた。ノルンは自分のペンだけ無傷なのが恥ずかしかった。
ギルド食堂へ移ると、セラフィは窓口へ戻り、クレアラは上階の貸金庫へ、ベルガは厩舎へ向かった。
解散の準備だ、とノルンは思った。
彼は共有日誌の最後に謝罪を書き、自分の名を名簿から消そうとした。
共有日誌には、三人がノルンへ任せた偵察記録や薬草の在庫まで挟まっていた。
戻ってきたセラフィがペンを取り上げ、代わりに細身の剣を日誌の上へ置いた。
「次の遺跡で碑文を写す間、これを見張って」
クレアラは貸金庫の鍵を四つの杯の中央へ投げた。
「装備資金はまだ残ってる。勝手に自分の持ち分だけ放棄しないで」
ベルガは厩舎札を机に貼る。出発時刻は明朝ではなく三日後へ書き直され、馬は四頭のままだった。
「角の代わりに肉を売った。今夜の飯代にはなる」
ノルンは謝罪の一行を指で隠す。
「僕がいなければ、報酬は受け取れた」
「お前が地図と魔物の習性を書いていなければ、火蜥蜴まで着けなかった」とベルガ。
クレアラは火傷した指を見せる代わりに、ノルンの空の皿へ焼き肉を置いた。
セラフィは隣の椅子を引き、日誌を開き直す。
「失敗の記録も仕事。次は最下段から読む、と書け」
ノルンが震える字で一文を加える間、三人は食事を始めず待っていた。
報酬はゼロでも、四人卓の席数だけは一つも減らなかった。