塩村の青い桶
潮風村の水は、何を煮ても少し塩辛かった。
浅井戸へ海水が染み込み、粥も茶も魚の塩漬けのようになる。唯一甘い水が出る丘の井戸は、村長の従兄が囲い、桶一杯ごとに塩袋を取っていた。
新しい徴税吏ネリネは、まず粥を一口食べた。
「しょっぱいですね」
「海辺だから仕方ない」
「いいえ。税の使い道が、もっとしょっぱいです」
彼女は過去三年の塩税を調べた。井戸修繕名目で集めた金の半分が、従兄の倉の屋根になっている。
だがネリネは長い裁判を始めなかった。横領分を差し押さえ、その銀で内陸側に深井戸を一本掘ると決めた。
新しい税は、出荷する塩車十台につき銀片一枚。
家庭の水は無料。製塩に使う水は別の白い桶で量り、使用量を板に記す。家庭用の青い桶へ仕事用の水を移した者は、翌日だけ製塩分を使えない。
徴収額、職人賃、残金は毎夕、塩倉の扉に大きく書く。
「青だの白だの、子どもの遊びか」
従兄は笑った。
すると塩焼き職人たちが、倉にあった桶を勝手に二色へ塗り始めた。
「今まで誰が飲み水を奪ったか、一目で分かる方がいい」
漁師は井戸掘りの土を船着場の穴埋めに使い、宿の女将は作業者へ、塩を入れない豆スープを振る舞った。それだけで皆が笑った。塩なしの料理を贅沢だと思う村だった。
掘削九日目、砂利の層から冷たい水が上がった。
ネリネは青い桶で汲み、従兄へ差し出した。
彼は疑いながら飲み、眉間の皺をほどく。
「……味がしない」
「それが水の味です」
最初の家庭用水は、村の大鍋へ注がれた。
女将が豆を煮る。湯気は海風に流れたが、塩の匂いはしなかった。
井戸脇には青と白の桶が、同じ数ずつ並べられた。
その上の板に、子どもが絵を描いた。
青い桶の横には口。
白い桶の横には塩釜。
そして一番下に、大きな文字。
――飲む水を、働く水に取らない。
出来上がった豆スープを一口すすり、村人たちは「薄い」と言って、嬉しそうにもう一杯ずつよそった。