声のない侍女を選ぶまで

王宮では、白狼が次代の聖女を選ぶ儀式が開かれていた。

宝石をまとった候補者たちが名を呼ばれるたび、広間の中央にいる白狼へ歩み寄る。白狼は誰にも触れず、低く唸り続けた。

「機嫌を損ねたぞ」

「偽物の候補がいるのでは」

楽師は儀式を盛り上げようと鐘を鳴らし、白狼の唸りはますます大きくなる。

声を失った侍女マレイは、壁際で銀盆を抱えていた。幼いころの病で話せなくなり、祈りを唱えられない者に聖性はないと、候補名簿から最初に外された娘だ。彼女には命令を出す声も、神獣へ捧げる祈りもない。それでも、白狼の耳が鐘のたびに伏せられ、肩が小さく震えるのが見えた。

マレイは銀盆を置いた。

侍従長が止める前に、楽師の前へ行き、両手で鐘を覆う。音が途切れた。次に候補者の足元から長い敷物を一枚借り、白狼までの滑る大理石へ広げる。

白狼の爪は床を何度も滑った跡があり、肉球の端が擦れて赤くなっていた。

マレイは少し離れて座り、掌を上にして待った。

白狼は唸るのをやめた。敷物へ一歩乗り、確かめるように爪を立てる。もう滑らない。ゆっくり進み、マレイの手を嗅いだ。

彼女は許されたと判断し、ぬるま湯で肉球を洗った。薄い軟膏を塗り、布を巻く。言葉は一つもない。白狼も何も求めなかった。マレイが指で「痛い?」と問い、白狼が尾を一度動かす。それだけで十分に会話になった。ただ鐘が再び鳴りそうになるたび、マレイの袖へ鼻先を押しつけた。

王太后が眉をひそめる。

「侍女を下がらせなさい。選ばれるべきは血筋ある娘です」

白狼は立ち上がった。候補者全員を通り過ぎ、マレイの足元でごろりと腹を見せる。

広間にどよめきが起こる。白狼の胸に浮かんだ星形の印が、マレイの喉元へ同じ光を灯した。失った声の場所に宿る、聖女の契約印だった。儀式の鑑定鏡には《沈黙を聴く者》と刻まれ、王太后もそれ以上は何も言えない。

マレイが驚いて胸へ手を当てると、白狼はその膝へ額を預けた。耳を覆う白毛は音のない雪原のように深く、ずっしりした温かさが、言葉などなくても選べるのだと伝えていた。