娘は高得点者へ

柊木礼士は娘の咲都を迎えるたび、学童の門に顔を向ける。離婚後も登録保護者であることは変わらない。照合が済むと、六歳の咲都が黄色い鞄を揺らして走ってきた。

元妻の美園が倒れた日だけ、門は開かなかった。

《緊急養育者を自動選定しました》

《柊木礼士:七三六》

《社会養育員・登録番号四一七:九二八》

子どもは保護者が不在になった時点で、迎えに来た登録成人のうち最も信用点が高い者へ引き渡される。親族かどうかは判定に入らない。

門の内側に、灰色の制服を着た男が立っていた。顔も名前も知らない。胸の端末だけが九二八と光っている。

「父親は俺です」

礼士が職員へ戸籍画面を見せる。

「父親であることは確認済みです。ただし、養育の信用順位が二位です」

礼士の点数が下がったのは、咲都の運動会や発熱で欠勤を重ねたからだった。養育員の九二八は、過去五年、一度も仕事を休んでいない。

咲都が門まで来た。

「パパ!」

礼士へ駆け寄ろうとすると、職員に肩を抱かれる。養育員はしゃがみ、作られたような笑顔で名札を見せた。

「今日から安全な場所で暮らそうね」

「この人、知らない」

咲都の声は判定に使われない。子どもにはまだ信用点数がなく、選択する信用がないからだ。

礼士は門の隙間へ手を入れた。

「美園は病院にいるだけだ。退院するまで俺が見る」

再判定が始まる。

《勤務継続性、納税、住居面積を比較》

《高得点者への引渡しを確定》

養育員の車が門内へ入ってきた。後部座席には、同じ黄色い鞄を持つ子どもが三人座っている。

「パパ、迎えに来たんだよね?」

礼士は頷いた。

「来た。ちゃんと来た」

それでも扉は開かない。

咲都は鞄から折り紙のメダルを出した。《いちばんいいパパ》と平仮名で書いてある。門のカメラへ押しつけたが、紙は読み取られなかった。

車が発進する。

礼士の端末に面会予約が表示された。

《信用点数八五〇到達後、申請可能》

現在七三六。

咲都の世話をしなければ欠勤は減り、点数は上がるかもしれない。娘を取り戻すためには、娘の父親でないように働く必要があった。

門は次の高得点者を迎えるため、静かに開いた。