存在しない第四倉庫
出版社の期末在庫会議で、椹木京介は倉庫管理会社の若手営業として、人気学習漫画三万冊の出庫証明を求められた。出版社は取次会社へ全冊を売却し、売上四千五百万円を計上済みだという。
納品先は「東都取次・第四倉庫」。受領印もあり、三月三十一日午後五時に検収完了となっていた。
京介は自社の倉庫一覧を出した。東都取次にあるのは第一から第三まで。第四倉庫という施設は存在しない。
出版社の販売部長は、取次が臨時に借りた外部倉庫だと答えた。
住所を調べると、そこは出版社自身の返品センターだった。三万冊はフォークリフトで建物の西区画から東区画へ移されただけで、所有者ラベルも出版社のまま。翌朝には同じ在庫として棚卸しされている。
取次会社との売買契約には、六月末まで売れ残った本を出版社が全額で買い戻す条項があった。ところが決算用に提出された契約書では、そのページだけ抜かれている。ページ番号は1、2、4と続き、割印も二ページ目と四ページ目でずれていた。
受領印を押した取次担当者へ確認すると、押印したのは「保管場所変更届」であり、売買の受領書ではないと答えた。印影画像が別文書へ貼り付けられていた。
販売部長は、出版業界では返品条件付き販売が普通だと開き直った。
「六月までに売れれば本当の売上になる」
京介は三万冊の棚番号を示した。
「六月の客へ売る前に、三月の取次へ売ったことにはできません」
京介は取次会社の販売報告も出した。三万冊のうち書店へ配本されたものはゼロで、取次手数料も発生していない。出版社は翌月、同じ三万冊を「新規出荷予定」として営業会議へ載せていた。三月に売った本を、四月にもう一度売る計画だった。
取次会社の経理も、四千五百万円を支払う債務は認識していないと書面で回答した。
出版社社長が四千五百万円の承認印を置いた。存在しない第四倉庫は、三万冊を決算の外へ運べなかった。