孤児院の空席

収穫祭夜会の長卓には、孤児院の子どもたちのための席が十二脚用意されていた。

 だが、誰も来なかった。

「フェドラ・ベルクート。君が招待を取り消したと聞いた」

 公爵クレヴァンは、空席の前で婚約者を断罪した。

「身分の低い子どもが夜会へ来れば品位が落ちると言ったそうだな。慈愛のない女とは婚約を破棄する」

 院の支援者を名乗るティベナが、目元を押さえる。

「冬の食料まで止められました。子どもたちは今夜も薄い粥を……」

 フェドラは空の皿を見た。一か月前、自分が選んだ蜂蜜菓子が一つずつ置かれている。

「告発は、わたくしが孤児院への物資を止めたという一点ですね」

「子どもを前に、まだ言い逃れるのか」

「子どもがいないからこそ、確認します」

 大聖院長ヘルヴィスが、長卓の端から立った。彼はフェドラの寄付を褒めたことも、クレヴァンを責めたこともない。ただ一通の供給契約を胸元から出した。

「冬季三か月、穀粉、薪、薬草を毎週納める契約だ。発注者はフェドラ嬢。受領先は聖ルド孤児院」

 契約書の下部には、受領先変更の追記があった。

 変更先――ティベナ男爵家別邸。

 変更承認――公爵クレヴァン。

「物資は止まっていない」とヘルヴィスは言った。「行き先を変えられたのだ。今夜、子どもたちが来られぬのは、薪がなく全員が同じ寝室で暖を取っているからだ」

 ティベナの嗚咽が途切れた。

 クレヴァンは契約書を奪おうとしたが、血判が彼の接近に反応して赤く光った。

「これは一時的な借用だ。フェドラ、君が相談に乗らなかったから」

「相談ではなく、盗用です」

「待て。返せば済む。婚約破棄も撤回しよう。君は公爵夫人として慈善を続ければいい」

 フェドラは十二脚の空席を見渡した。公爵夫人の名で施す限り、また誰かが横から行き先を変える。

 ヘルヴィスが手を差し出す。

「大聖院から独立した救護財団を作る。名義も鍵も、あなた自身のものだ」

 もう二度と席を空にしないと決め、フェドラはクレヴァンに背を向け、ヘルヴィスの手を取った。