客用布団を一組

押し入れを開けると、客用布団が四組、天井まで詰まっていた。

佳澄は一組ずつ引きずり出した。花柄、格子柄、生成り。いちばん下には、彼女が高校まで使っていた青い毛布が挟まっている。

「二組は残して」

母は畳の端に座り、布団袋の口を押さえた。

「新しい部屋、和室ないよ」

「あなたが泊まりに来るでしょう。もう一組は、誰か一緒かもしれないし」

誰か、という言い方で、母は結婚も孫も同時に部屋へ置こうとする。佳澄は圧縮袋のバルブに掃除機を当てた。布団が低い音を立てて縮んでいく。

「泊まらないよ」

掃除機を止めると、母の息をのむ音が聞こえた。

「一晩くらい、親孝行だと思って」

「会いには行く。でも泊まる約束はしない」

「前は何日でもいたのに」

佳澄は青い毛布を広げた。端に、母が縫った白い布がある。油性ペンで「りほちゃん」と書かれ、洗濯で輪郭が滲んでいた。実家に来ると、母は今もこの毛布を敷く。自分の家では名字で仕事をし、一人分の家賃を払い、自分で寝具を選んでいるのに、ここでは毛布の文字に戻される。

糸切りばさみで名札を外した。

「何するの。せっかく縫ったのに」

「毛布は持って帰る。名札は外す」

「だったら布団も一組くらい――」

「毛布一枚と、泊まることは別」

佳澄は青い毛布だけを畳み、自分の鞄の上へ置いた。四組の布団には回収業者のシールを貼る。母は花柄の一組を抱え、離さなかった。

「これだけは残す。私が昼寝に使うから」

「それならいいよ。お母さんが使うなら」

母は少しむっとした顔で、花柄を新居用の箱へ移した。客用ではなく「母の寝具」と書かれた札を貼る。

回収業者が来るまで、二人は圧縮された三組の上に座って麦茶を飲んだ。低くなった布団は、座布団代わりには固かった。

「来るときは、何日前に言えばいいの」

母が聞いた。

佳澄は麦茶の氷を一つ噛んだ。

「前の日でいい。泊まるかどうかは、その都度決める」

母は頷かなかったが、押し入れに新しい布団を戻そうともしなかった。

帰り際、佳澄は青い毛布を肩に掛けた。名札の外れた跡は四角く残っている。そこに新しい名前を縫うつもりはなかった。自分の部屋では、誰のための毛布かを表示しなくても分かる。