左目を下にした流水

王都の硝子工房で、白い洗浄粉が職人の顔へ跳ねた。

右目は閉じたが、左目に粉が入り、職人は床を転げた。親方は油を塗ろうとし、弟子たちは濡れ布で両目をまとめて覆う。

異界出身の雑役ヘリオは、布を奪い取った。

「左を下にして、水を流します」

「粉が溶けて奥へ入るぞ!」

「残したままのほうが焼け続ける」

ヘリオは職人の頭を傾け、傷んだ左目が下になるよう台へ寝かせた。水差しの口を目頭へ近づけ、細い流れを止めずに送る。白く濁った水は左の頬から床へ落ち、無事な右目へは一滴も渡らない。

一杯目は乳のように白かった。

五杯目で、流れる水が透明になった。

十杯目、職人は瞼を少し開いた。

「指が……三本見える」

親方が安堵して水を止めようとしたが、ヘリオは治療師が来るまで流し続けた。十五分後、到着した眼科治療師は左目だけを調べ、右目へ処置する必要がないことを確認する。

「粉を反対の目へ流さず、これだけ早く洗ったのか」

治療師が視標を出す。職人は一番小さな黒丸まで言い当てた。痛みは残っても、視界の欠けはない。

工房では三年前、同じ事故で二人が片目を失っていた。魔法薬は金貨二十枚。今回使ったのは井戸水十二杯、銅貨にもならない。

職人がもう一度視標を読むと、事故前と同じ六段目まで答えられた。右目を覆っても結果は変わらない。床には白い粉を含んだ水が一本の筋となって流れ、無事な側へ越えていないことが誰の目にも分かった。ヘリオは水差しの置き場所から事故現場までを測り、往復四十歩だった棚を四歩へ移す図まで描いた。次に必要なのは勇気ではなく、すぐ届く水だった。

事故翌日、職人は左目だけで透明な硝子の気泡を三つ見つけた。親方が見落としたほど小さな欠陥だったため、視力が残ったことに疑いを挟む者はいなくなった。

親方は油壺を棚の奥へ戻し、工房の四隅へ常時満水の洗眼壺を置く発注を決めた。

そして雑役札をヘリオの首から外す。

「硝子を磨く者は足りている。明日から、お前は二百人の目を守れ」

新しい役職は、王都初の『工房救護監』だった。