布団の国境線
果林と同じ部屋だと知ったとき、私は旅館の部屋割りを作った先生を少し恨んだ。
去年まで毎日一緒に帰っていた。コンビニで半分ずつ菓子を買い、雨の日は一本の傘を互いへ押しつけた。どちらかが休めば、その日の教室は席が一つではなく二つ空いたようだった。近すぎたから、離れ方だけを知らなかった。
今は廊下ですれ違っても会釈もしない。理由を聞かれれば「別に」と答えるしかない程度のすれ違いが、半年かけて大きな壁になっていた。
四人部屋で、私と果林の布団は隣だった。
他の二人が風呂へ行っている間、果林は荷物から細長いタオルを出し、畳の上へ置いた。
「ここ、境目ね」
冗談みたいな言い方だったが、私は笑えなかった。
消灯後、恋バナが始まった。好きな人の名前、告白した回数、初恋の時期。私と果林は順番が来るたび「いない」で通した。
「じゃあ、好きだった人」
そう聞かれ、私は小学六年の担任を答えた。果林も同じ人を答えた。声が重なり、他の二人が笑った。
「そこまで一緒なのに、なんで今しゃべらないの?」
暗闇では、誰の質問か分からなかった。
長い沈黙のあと、果林が言った。
「この子が、私と帰りたくないって言ったから」
「言ってない」
思わず起き上がった。
果林は、私が部活の先輩へ「もう一緒には帰れない」と話しているのを聞いたらしい。それは大会前で、練習時間が延びるからだった。果林のことではなかった。
「じゃあ、なんで説明しなかったの」
「聞かれなかったから」
「そっちも聞かなかった」
半年前なら、こんな言い合いの途中で笑っていた。けれど私たちは半年分、上手に怒れなくなっていた。
先生の見回りが来た。四人とも布団へ潜る。
戸が閉まったあと、畳を擦る音がした。果林が国境にしたタオルを引いたのだ。
「明日の自由行動」
暗闇で彼女が言う。
「前みたいに、隣歩いてもいい?」
私は返事の代わりに、自分の布団を少しだけ寄せた。
朝、二枚の布団の間には、畳が見えないほど細い隙間しか残っていなかった。