席番号は送らない
推しの公演当日、私は一人で会場へ向かった。
いつも四人分の電子チケットを管理する私へ、誰も席番号を送ってこなかった。
グループの安全のため、チケットは全員分を私の端末に集めていた。入場直前までスクリーンショットも許さない。転売されたら困るからだ。
服も私が決めた色で揃え、投稿する写真は一度共有フォルダへ入れさせた。推しの目に入る可能性がある以上、太って見える角度や、解釈の浅い感想を外へ出すわけにはいかない。三人はそれを「小町プロデュース」と笑っていた。なのに三人は、充電器まで別々に持っていた。以前は私が預かり、終演まで電池残量を決めていたのに。都和のバッグには、私が贈ったお揃いのチャームもなかった。外す時は四人で相談する約束だった。
入口で都和を見つけ、腕をつかんだ。
「どうして勝手に買ったの?」
「自分の名前で、自分の席を買っただけ」
去年、都和が恋人と行きたいと言った公演を思い出した。仲間を裏切るなら、と私は彼女のチケットを公式リセールへ出した。泣いたので、翌月の配信を私の家で見せてあげた。
ほかの二人が来て、過去の送金履歴を見せた。会場のざわめきの中、三人は私を囲むのではなく、係員の近くへ立った。まるで私が騒ぐと知っているようだった。私が「手数料」と呼んで上乗せした金額、座席を交換する条件として求めた買い物、欠席した子の本人確認書類を預かった記録。
「小町がいないと推せないようにされてた」
都和は、私が預かっていた本人確認書類を再発行したと言った。欠席すれば次の抽選から外す、勝手に友人を連れてくればグッズを渡さない。私が作った規則を、一枚ずつ読み上げた。
違う。私は誰より詳しく、失敗を防いできた。持ち物も服の色も投稿文も揃えれば、四人は美しく見える。勝手な行動を許せば、仲良しではなくなる。
係員が近づき、都和たちはそれぞれ違う入場口へ消えた。
新しいグループでは、席番号を最後まで共有しないと決めたらしい。
私は端末の写真を拡大した。
取り消される前に撮った都和のバーコードだけは、まだ消していなかった。