帰れない旅程

旅行会社の夜間窓口へ異動した相良ひよりは、初勤務の終わり際に、最初のクレームを受けた。

「新婚旅行を台無しにするつもりですか。乗り継ぎ便がなくなって、空港から動けません」

海外の空港にいる夫婦は、翌朝の離島便に乗らなければ、予約した船にも間に合わない。航空会社の時刻変更通知は三日前に届いていたが、自動再発券された旅程では、乗り継ぎ時間が三十五分しかなかった。

画面上は「接続可能」と緑色で表示されている。先輩は「航空会社都合だから、現地カウンターへ案内して記録を閉じて」と言った。

ひよりは、預け荷物の条件を開いた。二つの便は同じ会社に見えて、実際は別券だった。荷物の受け取りと再預けが必要で、三十五分では不可能だ。緑色の表示は、人だけが移動する場合の最短時間だった。

「こちらで組み直します」

残席を探すと、直行便は満席。だが別の都市を経由し、夜行フェリーへ乗り継げば、翌朝の島に着ける。港までの最終バスは出た後なので車も要る。フェリーは船室が満席だったが、椅子席が二つだけ残っていた。追加費用は会社の緊急承認額を少し超えていた。

先輩が首を振る。「課長の返事を待って。勝手に発券したら、差額を持たされるよ」

現地時刻では、フェリーの受付終了まで十八分だった。

ひよりは夫婦に、飛行機だけでなく船を使う経路、移動時間、荷物条件を一つずつ説明した。「予定とは変わります。それでも、朝の式場には間に合います」

夫婦は短く相談し、「それでお願いします」と答えた。

ひよりは緊急権限で発券し、港までの車も手配した。乗り場名が似ていたため、現地語の地図と運転手へ見せる短い文も送る。承認欄には自分の社員番号を入れ、費用超過の理由を一行ずつ残した。数分後、夫婦から船内の写真が届いた。窓の外は真っ暗で、紙コップが二つ写っていた。メッセージには〈予定と違うけれど、二人で海を渡っています〉とあった。

翌朝、課長は費用超過の理由書を求めた。

ひよりは、最短乗り継ぎ時間に「荷物の再預けを含むか」を確認する欄を加えた新しい旅程表と一緒に提出した。

そして夜間窓口の翌月シフト希望に、自分で丸をつけた。