座布団のぬくもり

父の再婚後、少年は古い家の座敷で食事をした。

新しい母親は優しかった。

優しいからこそ、亡くなった母の場所へ入られるのが嫌だと言えなかった。

座敷には紺色の座布団が六枚ある。

夜になると、そのうち一枚だけが人肌に温かくなった。

誰も座っていないのに、ついさっきまで子どもがいたようなぬくもりだった。

その座布団は、家でいちばん寂しい人の隣へ置くと、朝まで冷めなかった。

最初、父は少年の隣へ置いた。

確かに温かい。

父は頭を撫でようとしたが、少年は避けた。

慰められたいわけではない。

寂しいと決めつけられるのも腹が立った。

次の夜、温かい座布団は新しい母親の隣へあった。

少年は驚いた。

彼女は食卓でいつも笑い、家の決まりを一つずつ覚え、亡くなった母の食器を勝手に使わなかった。

「寂しいの?」

少年が聞くと、彼女は否定しようとした。

座布団へ触れ、やめた。

「この家で、何をしても誰かと比べられる気がする」

少年は何も言えなかった。

自分だけが苦しいと思っていた。

三日目、温かい座布団は父の隣へ置かれていた。

父は二人の顔を見て、

「私は違う」

と言ったが、座布団は冷めない。

父は妻を亡くした悲しみと、新しい人を大切にしたい気持ちの両方を、誰にも話せなかった。

どちらを口にしても、片方を裏切る気がしたという。

三人は座布団を囲んだ。

一人ずつ座るのではなく、真ん中へ置いた。

少年は亡くなった母の話をした。

新しい母親は、知らない人の思い出を聞くのが怖かったが、知りたいとも言った。

父は二人へ謝り、謝るだけで済ませようとしたので、少年が止めた。

座布団は夜半には冷めた。

その後も、ときどき一枚だけ温かくなった。

試験に落ちた少年。

実家の母と喧嘩した新しい母親。

妻の命日に笑ってしまった父。

誰の隣へ置くかで揉めることもあった。

やがて家族は、温かくなる前に尋ねるようになった。

「今日、座布団いる?」

必要な人は、いると言う。

いらない人も、本当は少し欲しいと言うことがある。

紺色の座布団は、家霊の席だったのかもしれない。

けれど三人はそこへ誰も座らせなかった。

寂しさを消すためではなく、同じ部屋に置いて話すための空席として、いつも真ん中へ残した。