影の席

葬儀堂に灯された十二本の蝋燭が、一斉に消えた。

セルガンの影から、十二人の影が立ち上がる。彼がこれまで勝った者たちだ。

《影席》の術は、倒した敵の影を従者として使える。代わりに一勝ごと、自分の影が身体の一部を失う。最初は耳。次は指。十勝目には、影の顔がなくなった。影が欠けても肉体は動く。だが欠けた部分に宿る人間らしさも少しずつ薄れた。耳を失えば歌を好まなくなり、手を失えば誰かに触れたいと思わなくなった。

今夜、王子ユメラの棺へ忍び込んだ影殺しを捕らえるため、セルガンは葬儀堂を閉ざしていた。

床の暗がりが膨らみ、影殺しが王子の喉へ伸びる。

セルガンは十二の影を差し向けた。剣士の影が腕を押さえ、犬の影が脚へ噛みつき、処刑人の影が首を刎ねる。

敵は倒れた。

十三勝目。

足元から、薄い布を引き抜かれる感覚がした。

セルガン自身の影が消えた。

同時に、胸から何かが抜けた。棺の中の王子を助けられてよかった、という安堵だった。彼は王子を守る命令を遂行したと理解している。けれど命の重さを感じられない。

夜明け、扉が開く。衛兵たちは影殺しの死体を見て歓声を上げたが、朝日を浴びるセルガンを見て剣を抜いた。

「影がない」

影を持たぬものは人ではない。それは子どもでも知る決まりだった。

ユメラが棺から起き上がった。死を偽装して囮になっていた少年は、衛兵の前へ両腕を広げる。

「この人は僕を守った」

「人ではありません」

セルガンは反論しなかった。怒りも悲しみも、影と共に消えていた。

王子は床へ膝をつき、燃え残りの炭でセルガンの足元に人の形を描いた。頭、肩、両腕。最後に剣まで添える。

「これを使って」

朝日が高くなっても、炭の影は彼についてこなかった。

セルガンは十二の従者を自分の中へ戻した。すると足元には、倒した者たちの影だけが折り重なった。

衛兵の一人が尋ねた。

「おまえは何者だ」

セルガンは答えを探した。自分を人間だと思う理由が、もう一つも残っていなかった。