役に立たない葬式

榎戸燈世の母が亡くなると、葬送AIは十一分で全手続きを終えた。

死亡確認、火葬、遺産分配、知人への通知。母の人生を編集した映像には、適切な音楽と適度な笑いが入り、視聴者の悲嘆が長引かない構成になっていた。

燈世は何もする必要がなかった。棺に触れることも、誰かへ電話することも、部屋を片づけることもない。翌朝には母の痕跡が整理され、生活AIが通常日程へ戻るよう勧めた。

母が入院してから、燈世は見舞いも自動面会で済ませていた。疲労を減らし、母の覚醒時間に合わせて最適な会話映像を送るほうが、互いに良いと判定されたからだ。最後に手を握った日を思い出そうとしても、候補映像ばかりが浮かび、本物の感触が分からなかった。

葬送AIは、罪悪感の増大を検出して鎮静音声を流した。燈世は端末を布巾で包み、音を止めた。せめて自分の手で、母のために何か失敗したかった。

燈世は台所に立った。母が葬式のたびに作った、丸くないおにぎりを思い出したからだ。米は自動調理を解除すると鍋底で焦げた。塩の量が分からず、握れば崩れた。

それでも、母を知る人へ一つずつ配った。

「何のため?」と叔父が聞いた。

「分からない。葬式で、何もすることがなかったから」

十人が居間に座り、崩れたおにぎりを食べた。誰も気の利いた言葉を言えない。母の映像を流そうとすると、叔父が止めた。

「姉さん、こんな上品に笑わなかったよ」

近所の女性が、母は傘をよく盗まれたと話した。従妹は、電話が長くて困ったと言った。美談にならない記憶が、ぽつぽつと卓上へ置かれた。

一口食べた叔父が顔をしかめた。

「塩辛い」

「母もよく失敗した」

その瞬間、燈世は初めて泣いた。

その夜、片づけは自動機に任せず、全員で皿を洗った。叔父は二枚割り、従妹は泡を床へこぼした。燈世は、母がいないことを、減っていく汚れと冷める湯の中で少しずつ理解した。

後日、彼女は自動葬送を拒んだ家族のところへ行き、湯を沸かし、椅子を並べ、何をすればよいか一緒に迷うようになった。報酬は受け取らなかった。

役に立たない手間が、悲しみに居場所を作ることを知ったからだった。