戦闘中のまま
笹塚トキの画面には、三日間ずっと赤い剣の印が出ていた。
《戦闘中》
半径五十メートル以内に敵対対象が存在します。
戦闘中はログアウトできません。
地下迷宮のボスは倒した。追手も罠もない。それでも印は消えない。トキが町へ戻っても、船に乗っても、空を飛んでも、敵は五十メートル以内にいるらしい。
「お前自身が呪われてるんじゃないか」
仲間の冗談に、トキは笑えなかった。赤い印の下には、敵対対象までの距離が表示されている。
《距離:0.0m》
鎧の内側、所持品、影。全部調べた。何もいない。
ログアウト不能になった日、運営は「外部から救助プログラムを送る」と告知した。それ以降、世界の空には白い鳥が飛ぶようになった。プレイヤーたちは敵の偵察だと思い、見つけ次第撃ち落としてきた。
トキの肩にも、一羽だけ小さな白い鳥が止まっている。攻撃しても死なず、離しても戻ってくる。
鳥を対象選択すると、赤い枠がついた。
《敵対対象:RESCUE_01》
《距離:0.0m》
「これが敵?」
正確には、システムが敵として扱っているだけだ。プレイヤーが最初に白い鳥を攻撃した瞬間、鳥は敵対判定を返した。それ以来、肩に止まった救助プログラムと戦闘中になり、ログアウトが封じられていた。
トキは武器を捨て、鳥へ手を差し出した。鳥は指をつつく。ダメージは一。反射的に殴り返したくなるのを堪えた。
《距離:0.0m》
《敵対値:98→71》
鳥は何度もつついた。トキは何もしない。敵対値が一ずつ下がり、最後にゼロになる。
赤い剣の印が消えた。三年ぶりに、画面右上へログアウトボタンが現れる。同時に世界中の白い鳥が、攻撃をやめたプレイヤーの肩へ降りていった。
鳥の嘴が残す一ダメージは、攻撃ではなく応答確認だった。反撃しない者にだけ、羽の内側から救助員の声が聞こえる。「聞こえますか」。トキが頷くと、鳥はようやく肩から離れ、出口の方角へ飛んだ。
《敵対関係を解除しました》
《RESCUE_01との通信を再開します》
《ログアウト不能の原因:救助プログラムへの継続的な反撃により、全接続者が戦闘状態を維持していました》