手袋を外したアバター
映像作家の院瀬見は、閉めれば施錠される収録室から、顔を隠す三次元アバターで制作会議へ参加した。アバターは身振りを交え、十五分間も新作を説明したが、最後に胸を押さえる動きをして停止した。非常開錠された室内で、院瀬見は床に倒れていた。死亡は会議開始前。頭部用カメラも窓も閉じ、扉は外から閉めれば施錠される。
容疑者は動作設計者の朽網、制作統括の高麗、出資者の矢颪。三人とも会議へ参加し、院瀬見が権利契約を破棄すれば損をする。アバターは本人の身体動作を即時に写す仕様だと朽網は説明した。
院瀬見のアバターは白い狐を模し、目線や指先まで本人らしく作られていた。高麗は「声の震えもいつも通りだった」と言い、矢颪は映像作品なのだから同じ仕草があって当然だと反論した。朽網は追跡機器の専門家として、動きが生身から送られたことを保証した。その保証こそが事件の中心にあった。
私は動きを文章ではなく順番で数えた。手掛かりは三つだった。
第一に、右手を上げ、首を傾け、両手を開く一連の動作が、二十四秒ごとに寸分違わず繰り返された。
第二に、身体を読む追跡手袋は、院瀬見の両手から外され、電源も抜かれていた。
第三に、会議で読み込まれた動作ファイルの作成者欄には、朽網の利用者番号が残っていた。
高麗が再生を止めると、アバターは同じ笑顔の途中で固まった。声も院瀬見が前日の試演で録音したものだった。
「生きて動いていたのは人ではなく、動作ファイルです」私は朽網を見た。彼は試演の身振りと声を保存し、院瀬見を殺した後、アバターへ繰り返し再生させた。手袋が外れている以上、生体追跡は不可能であり、二十四秒の完全反復は録画動作を示す。作成者番号が操作できた人物を朽網へ限定する。最後の胸を押さえる動きも、死ではなく演出用のポーズだった。密室にいた死者を、仮想の身体だけが十五分間生かしてみせたのである。 画面の身体は精巧でも、同じ二十四秒から一歩も出られなかった。