教室に降る紙吹雪
文化祭の片づけでカーテンを外した瞬間、紙吹雪が久遠の頭へ降ってきた。開会のダンスで使ったものが、ひだの奥に残っていたらしい。
「最悪」
つぶやくと、隣で紗良が笑った。
二年一組の実行委員だった久遠は、準備期間中ずっと怒っていた。集合時刻に遅れた人を責め、ポスターの文字幅まで直し、前日の夜には「本気なの私だけ?」と言って教室を凍らせた。文化祭は成功した。それでも閉会後、誰も自分と目を合わせなかった気がした。
皆がごみ袋を運びに出たあと、教室に残ったのは久遠と紗良だけだった。床に散った紙片は、よく見ると新品ではない。失敗した進行表や、没になったチラシを細く切ったものだった。
久遠は一枚を拾った。自分の赤字で〈五分遅い〉と書いてある。その裏に、丸い字で〈でもこの修正で間に合った〉とあった。
別の紙には〈久遠、寝ろ〉。その横に小さな眠そうな顔。ほかにも、〈怖いけど助かった〉、〈言い方は嫌い、仕事は尊敬〉と、誰かの落書きが残っている。中には、久遠が何度も書き直させた看板の裏へ〈来年は委員じゃなくても一緒にやろう〉とある紙もあった。歓迎されていると都合よく決めることはできない。それでも、自分が嫌われるか感謝されるかの二択だけで皆を見ていたことには気づけた。
胸が痛んだ。褒められているのに、きれいな気持ちにはなれなかった。自分が傷つけたことまで消えるわけではないからだ。
久遠はクラスのグループチャットを開いた。長い説明を書き、消した。成功させたかった、私だけ焦っていた、皆も悪かった。どれも言い訳に見えた。
最後に一行だけ打った。
〈言い方がきつくてごめん。片づけ、明日も手伝わせてください〉
送信すると、すぐ既読が三つついた。返事はまだ来ない。
紗良がちりとりを差し出した。久遠は受け取り、紙吹雪を集め始めた。全部を同じ向きに揃えるのはやめた。文字のある面も、白い面も、混ざったまま袋へ入れた。
教室を出るころ、床には一枚だけ残っていた。久遠は拾い直さず、明日の自分に任せた。