昼寝の領収書
柚葉は、休んだ時間にまで理由を求めた。
昼寝をすれば「昨夜の睡眠不足を補うため」、甘いものを食べれば「脳に糖分が必要だったから」。何もしない午後には、回復という名前をつけた。説明できない休息は、怠けた時間として自分の中の帳簿に残った。
日曜の昼、柚葉はソファで目を覚ました。時計は三時十八分。二時間近く眠っていたらしい。窓から入る光がもう黄色い。午前中に洗濯と掃除を終え、資格試験の問題集を開いたところまでは覚えている。ページには頬の跡が薄くついていた。
胸の奥がざわついた。二時間あれば、模擬問題を一回分解けた。作り置きもできた。来週の予定も整理できた。柚葉はスマートフォンを手に取り、睡眠記録アプリを開く。昼寝の欄に「体調不良」と入力しかけた。
本当に体調が悪かったわけではない。ただ眠かった。それだけでは、自分を許す根拠にならない気がした。
キッチンへ行くと、朝淹れたコーヒーがポットに残っていた。冷えて酸っぱい匂いがする。柚葉は新しい湯を沸かしながら、眠っていた二時間を取り戻す計画を立てた。夕食を簡単にし、風呂を短くし、夜中まで勉強すれば帳尻が合う。休んだぶんを後ろへずらすだけなら、罪悪感は消せる。
湯が沸く前に、問題集の通知が鳴った。《今日の学習記録がまだありません》
柚葉は画面を開く。連続学習日数は四十三日。今日を空白にすれば、数字はゼロからになる。その脅しに似た表示を見つめ、指先が冷えた。
四十三日を守るために、今から一問だけ解くこともできる。けれど一問で終われないことを、柚葉は知っていた。
通知の設定を開き、「学習リマインダー」をオフにする。続けて今日の記録欄にあった「体調不良」の文字を消した。代わりの理由は入れず、空欄のまま保存した。
やかんが鳴った。柚葉は紅茶を淹れ、昼寝でくしゃくしゃになった毛布を畳まなかった。問題集は閉じ、頬の跡がついたページに栞だけを挟む。
二時間眠ったからといって、何かが回復した実感はなかった。むしろ夜に眠れなくなるかもしれない。それでも柚葉は、昼寝の領収書を作らずに午後を終えることにした。
窓辺で紅茶を飲む。三時四十分。まだ今日を有効に使える時間は残っていたが、柚葉はそれを使い切らなかった。