時計鳥の茶摘み
ラウラが丘の茶園を買ったとき、村人は「一人では摘みきれない」と言った。
一人で摘むつもりはなかった。
日の出とともに、十二羽の時計鳥が充電台から飛び立つ。真鍮の嘴で柔らかな二枚葉だけを選び、背中の籠へ入れ、製茶小屋へ運ぶ。古い魔導機械なので、ときどき一羽が鐘の代わりにくしゃみのような音を出す。それでも、若葉を潰したことは一度もない。
ラウラは白い日傘の下で、焼き菓子を割った。
侯爵家の侍女だった頃、彼女の朝は鐘より早かった。夜会の裾直し、深夜の湯浴み、明け方の荷造り。黒い侍女服は今も箪笥の奥にある。膝だけが白く擦れ、袖の内側には針で刺した小さな血染みが点々と残っている。
時計鳥が最後の籠を運び込むと、製茶機が回り始めた。蒸気に青葉の匂いが混じる。
卓上の受信器に文字が浮かんだ。
《新茶四十缶、王都喫茶組合が予約購入。入金済み》
ラウラは一缶だけ自宅用に除け、残りの発送を機械へ任せた。
時計鳥には、日が高くなれば必ず止まる歯車を入れてある。収穫が残っていても、翌朝へ回すためだ。壊れるまで働く道具を作らないことが、茶園を手に入れた日に決めた最初の規則だった。茶葉にも機械にも、明日はちゃんと来る。
受信器が続けて紫色に光る。侯爵家の家令からだ。
『奥方様が新しい侍女を気に入られない。ひと月だけ戻ってほしい』
『お断りします』
『給金は以前の三倍でよい』
『以前の三倍働かされるのでしょう』
『君は主人の好みをすべて覚えている』
ラウラは笑みを消した。好みを覚えたのではない。忘れるたびに叩かれたのだ。
『今は、自分の好みを覚えるので忙しいのです』
返信を封じ、受信器の紫の灯だけ外した。
時計鳥の一羽が、試飲用の小缶を嘴で運んでくる。ラウラは淹れたての茶を白い杯へ注ぎ、砂糖を二匙入れた。侯爵夫人が「茶への侮辱」と禁じていた飲み方だ。
甘い新茶をひと口飲み、彼女は日傘を少し傾けた。午後の予定は、もう一枚、焼き菓子を食べることだけだった。