最後の十二食
調理実習室の冷蔵台に、十二個の白い容器が並んでいた。
有馬菜々美たちの〈グリーンデイズ〉は、大学生向けの植物性ランチ定期便だった。環境に優しく、安くて、健康的。三人はそう書いた。実際には輸入豆の値上がりで一食ごとに赤字が増え、最後の月は十二人しか契約者が残らなかった。
「今日のメニュー、何?」
宮島拓真が蓋を開ける。
「大豆ミートの生姜焼き」
倉田澄明が匂いを確かめた。
「昨日もそれ」
「在庫がそれしかない」
菜々美は解約者への返金表を読み上げた。金額の横に、退会理由が並ぶ。量が少ない。受取時間が合わない。肉が食べたい。一番多かったのは〈なんとなく〉だった。
「なんとなくに負けたんだね」と菜々美。
「俺たちも、なんとなく世界を変えられると思った」と拓真。
「私は計算したよ」と澄明。
「原価だけで、食べる人の飽きは計算してない」
三人の言葉は、ステンレスの壁へ硬く返った。
拓真は地元の水産会社へ入る。
「魚を売る。環境にいいって決めつけず、獲り方から覚える」
菜々美は病院の栄養士になる。
「正しい食事より、食べられる食事を出したい」
澄明は発酵研究の大学院へ進む。
「豆は続ける。会社じゃなく、菌と組む」
「菌は退会しない?」
「条件が悪ければ死ぬ。人より正直」
十二食のうち十一食は契約者へ届ける。残り一食は、三人で分けるはずだった。けれど包丁を入れると、大豆ミートはきれいに三等分できず、一切れだけ大きくなった。
「代表が食べて」と拓真。
「原価担当でしょ」と菜々美。
「じゃんけんでいい」
三人は手を出し、菜々美だけが負けた。最後の会社の利益みたいに、大きい一切れが彼女の皿へ来た。
配送が終わると、拓真は保冷箱を返し、澄明はレシピデータを消した。菜々美が冷蔵庫を開ける。最上段に、退会した一人へ渡せなかった容器が残っていた。
蓋には〈十二番〉と書かれていた。受取人の名前だけが黒い線で消され、冷気の中で、最後の一食は誰の未来にも選ばれないまま白く冷えていた。