最後の配達票
玄関先で殴られたのは、荷物を届けただけの私だった。
警察署で頬の腫れを冷やしながら、私は制服の胸を指した。配達先の男は、ドアを開けるなり腕を掴み、室内へ引きずり込んだ。何度も荷物が消えた腹いせだという。
「私は正規の配達員です。これが伝票です」
制服の袖には三社分のワッペンを剥がした跡があった。繁忙期には応援先が変わるのだと先に説明してから、鞄から束を出す。どの配達票にも同じような崩れた署名があり、端末の受領音は一度も鳴らなかった。古い機種で調子が悪い、と説明した。
照会された社員番号は、三年前に退職した人物のものだった。名札を譲ってもらっただけだと言い張ると、捜査員は私の手描きの地図を眺めた。玄関脇に植木鉢、裏口に低い窓、昼間に車がない家には赤い丸。効率よく回るための配達メモだ。
「今日、届けた箱の中身は?」
「知りません。封がしてありました」
男は隣室で事情を聞かれていた。私を見るたび、怒鳴ろうとして警官に止められる。彼の右手にも擦り傷があった。殴った証拠だと私は言ったが、傷は私の箱を掴んだとき、割れた貯金箱で切ったものだった。
「この男は一週間、うちの前をうろついていた。制服も毎回違う会社のものだった」
私は笑った。荷物を失くした人間の被害妄想だ。
捜査員が証拠袋を机へ置いた。私が抱えていた箱だ。封を切ると、中から腕時計、合鍵、子どもの貯金箱、家族写真が出てきた。
「配達する品には見えませんね」
男の家から盗んだのではない。地図の赤丸を付けた家々から、留守を狙って集めたものだった。今日は箱を抱えて玄関を出るところを、帰宅した男に捕まった。
捜査員が私の帽子の裏をめくる。縫い付けられた会社名は、廃業した運送会社のもの。端末は玩具で、伝票の署名はすべて私が書いていた。
最後の配達票に記された届け先は、警察署だった。
男が私を殴ったのではない。盗品を抱えて逃げる私を取り押さえた際、ドアに頬をぶつけただけだった。
荷物を届けに来た被害者ではなく、被害品を持ち去る配達員だった。