枯れた種は井戸を選ぶ

塩の浮いた井戸を見て、開拓民たちは荷車へ戻り始めた。

砂漠の外れにある新領地。三日かけて掘った井戸から出たのは、舌が痺れるほど濃い塩水だった。持参した樽は今夜で空になる。ここを捨てれば、王都へ戻る道で家畜の半分は死ぬ。

追放農夫のサハルは、開拓許可証に付いていた一回限りの土地ガチャを回した。

手に落ちたのは、黒く縮んだ種だった。

【N:枯れかけの種】

【水のある方へ根を伸ばします】

役人は肩をすくめた。「水なら、そこにある。塩水だがな」

サハルは説明文の「水」を指でなぞった。塩水とは書かれていない。種にとって飲める水でなければ、根を伸ばす意味がない。

彼は井戸から十歩離れた乾いた地面へ、種を一粒だけ埋めた。残っていた飲み水を、蓋一杯ぶん注ぐ。

土の下で、こつん、と小さな音がした。

細い根が生まれ、塩の層を避けて地中深く潜っていく。砂の表面に白い線が走り、遠くの岩盤へ向かって曲がった。やがて地面が盛り上がり、透明な水が一本、噴き出した。

根は地下の淡水脈へ届いただけではない。周囲の塩を葉の代わりに結晶として吐き出し、泉の縁へ白く積み上げた。サハルが手ですくうと、水は冷たく、甘かった。

水脈へ届くまでの根の軌跡は、地表に淡い緑の筋として残った。サハルがそこへ鍬を入れると、乾いていた土が指の間でほろりと崩れる。根は水を運びながら土の塩分まで吸い上げ、畑にできる帯を泉から放射状に作っていた。

役人は帰還命令書を丸めた。もう「居住不能」と書ける土地ではない。

泉の縁へ積もった塩は不純物のない白い結晶で、保存食を作るにも売るにも使える。捨てるしかなかった土地が、水と最初の産物を同時に差し出していた。

戻りかけていた荷車が止まる。

開拓民は樽を抱えて駆け寄り、子どもは靴を脱いで浅い泉へ入った。サハルは湿った土を握り、明日の畑をどこから始めるか考えた。

泉の中央で、枯れていた種が双葉を開く。葉脈は金色だった。

【不毛地に永久淡水源を創出】

【最低表示Nを解除――神話級SSS《世界樹幼核・渇きを知らない根》、大陸初発芽】