染め水の勘定
染色町ヴェルダの川は、夜になると紫色になった。
原因は染め工房だと誰もが知っていたが、旧税制は工房一軒につき月銀貨十枚。草染めの小店も、百人を雇う大工房も同額だった。小店は税を払えず廃業し、大工房は「払っている」と言って何樽でも汚水を流した。
川下の洗濯女たちが役所へ押しかけた日、会計役メルチェは真っ白な布を一反、会議卓へ広げた。
「税額ではなく、この布を汚す量で決めます」
新しい規則は、染料樽の容量で分けられた。
最初の小樽一つは無税。二樽目から、十桶染めるごとに銅貨一枚。金属媒染を使う場合は追加一枚。どの工房が何桶染めたかは、川沿いの水車計が自動で記録する。税収は沈殿池と濾し砂の交換以外に使わない。
「大工房だけが損をする」
工房主ディゴが机を叩く。
「川を多く使う者が多く払うだけです。小さく染めれば、あなたも少なくなる」
「役所が桶数を水増ししたら?」
メルチェは水車計の鍵を三つに割り、工房組合、洗濯組合、役所へ一つずつ渡した。
「三者が揃わなければ開きません」
洗濯女も小店主も、初めて同じ机でうなずいた。税率を変えるにも三組合の公開会議が必要で、役所だけでは銅貨一枚分も足せない。
税が始まると、小工房が三軒戻った。彼らは草染めを共同で行い、無税枠を奪い合うのではなく、一つの小樽を順番に使った。大工房は追加税を嫌い、媒染液を再利用する装置を自費で作った。
沈殿池を掘る日、洗濯女たちだけでなく染め職人も鍬を持ってきた。
「命令じゃないわよ」
メルチェが言うと、ディゴが袖をまくった。
「分かっている。毎月十枚取られて川が紫のままより、自分の三十二枚が砂袋になったと見える方がましだ」
彼は一番深い場所へ降りた。
七日後、沈殿池に最初の水が流れ込んだ。紫は池の底へ沈み、濾し砂を抜けた水は透明だった。
メルチェは会議卓で使った白布を川ですすぐ。布には何色もつかなかった。
川岸の三つの組合は、同じ看板を立てた。
『染めた量だけ払い、流す前に清める』
その下で白布が風を受け、町でいちばん鮮やかに翻った。